2,000万円が必要といわれる老後資金ですが、持ち家がない人は足りるのでしょうか。賃貸暮らしの場合は家賃が発生し続けるため、持ち家を前提とした2,000万円では不足する可能性があります。一方で、2,000万円という数字はあくまでもモデルケースであり、すべての人に当てはまるわけではありません。
そこで、持ち家がない場合の老後資金について、2,000万円の根拠も含めて詳しくご紹介します。賃貸暮らしの方が、老後の生活設計を立てる際の参考にしてください。
もくじ
持ち家がない人の老後の生活費
2,000万円という試算結果が話題となった老後資金ですが、持ち家がない人の生活費はどの程度見積もっておくべきなのでしょうか。実は老後資金を試算したモデルケースに加えて、家賃分を考慮しておくことも必要です。
賃貸暮らしの人が老後に必要な資金について、詳しくみていきましょう。
老後2,000万円のモデルケース
金融庁が令和元年に公表した、老後に2,000万円が必要となるモデルケースは、夫65歳以上、妻60歳以上で無職の夫婦が夫95歳、妻90歳で死亡することを想定しています。また、夫婦ともに健康で介護・医療費がかからないことが前提で、毎月約55,000円が赤字となる場合です。
老後に必要な資金は、求める生活水準によって大きく変わります。2,000万円が必要となるのは、年金とその他の収入から生活費を差し引いて毎月55,000円が赤字になる場合です。医療保険への加入がなく入院費などがかかってしまうと、2,000万円では不足するケースもあります。
2,000万円のモデルケースを参考にしつつ、自身の老後資金をできるだけ具体的にシミュレーションしておくことが大切です。
シミュレーションの住居費は持ち家所有を想定
老後2,000万円のシミュレーションでは、持ち家を所有していることが前提のため、家賃は含まれていません。総務省統計局の「家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)」によると、65歳以上の夫婦のみ世帯の支出の合計は約26万円で、内訳は以下のとおりです。
- 食料:67,776円
- 住居:15,578円
- 光熱/水道:22,611円
- 家事/家事用品:10,731円
- 被服および履物:5,003円
- 保健医療:15,681円
- 交通/通信:28,878円
- 教育:3円
- 教育娯楽:21,365円
- その他の消費収支:49,430円
- 上記合計(消費支出: 236,696円
- 非消費支出(税金や保険料など): 31,812円
- 支出合計:268,508円
住居費として盛り込まれている15,578円は、固定資産税などの住居維持費用です。賃貸住宅の場合は家賃がかかるため、平均で毎月55,695円の住居費が必要となります。
家賃分を別途準備する必要がある
老後資金のシミュレーション値である2,000万円には、賃貸住宅の家賃が含まれていません。持ち家がない人は、2,000万円とは別に家賃分を用意しておく必要があります。
ただし、生活費の内訳や家賃によって必要な金額は変わってくるため、できるだけ具体的にシミュレーションをすることが大切です。家賃は、地域や間取りによってまったく変わってきます。資金計画とあわせて、老後に住む地域についても検討しておきましょう。
持ち家のない人が安定した老後の生活を送る方法
持ち家がない人の場合、生きている限り家賃が発生し続けます。老後に安定した生活を送るためには、十分な資産を用意しておくか、支払いに無理のない家賃に抑えることが必要です。
持ち家を建てるという選択肢も含めて、老後の生活資金についてみていきましょう。
積極的に資産運用をして資金を確保する
持ち家がない場合は、積極的に資産運用をして十分な資金を確保しましょう。家賃を払いながら安定した老後の生活を送るには、資金に余裕をもたせておくことが重要です。
資産運用をする際は、iDeCoやNISAの活用をおすすめします。初心者でも始めやすく、運用益が非課税になるなどのメリットがあるためです。また、現物資産となる不動産投資も、資金の確保手段として検討してみましょう。家賃収入を安定的に得られるうえ、売却してまとまった資金を手にすることも可能です。
家賃の安い物件や地域への引越しを検討する
賃貸物件の家賃相場は、地域や築年数、立地などの条件によって異なります。老後に向けて、家賃の安い物件への引越しを検討することも大切です。
現役時は通勤や生活の利便性から、家賃の高い地域に住まざるを得ない場合もあるでしょう。しかし、通勤が不要となる老後であれば、範囲を広げて物件を探すことも可能です。毎月固定でかかってくる家賃水準を落とせば、老後生活の安定化を図れます。
リバースモーゲージを利用して家を建てる
リバースモーゲージであれば、高年齢になっても持ち家を実現できる可能性があります。リバースモーゲージとは、自宅を担保にして家を建てる資金を借り入れ、利息のみを毎月支払っていくローンの仕組みです。借り入れた元金は、リバースモーゲージの契約者が亡くなった際に一括で返済します。
若いときであれば十分な返済期間が取れることから、通常の住宅ローンでもあまり負担にはなりません。しかし、高年齢になると返済期間が短くなるため、一般的な住宅ローンでは返済が大きな負担となります。また、収入を得られる期間が限られる中高年の場合は、そもそもローンの審査に通らないケースも少なくありません。
利息のみの返済であれば負担も少ないため、リバースモーゲージを利用することで無理なく持ち家が手に入ります。資産としてではなく、終の棲家として持ち家を考えている方は、リバースモーゲージの利用も視野に入れましょう。
老後に賃貸物件に住むメリット
老後資金という側面ではやや不利な賃貸暮らしですが、実は持ち家にはないメリットもあります。特に老後はライフスタイルが大きく変化することもあるため、状況によっては賃貸暮らしのほうが合っているかもしれません。
そこで、老後に賃貸物件に住むメリットを3点ご紹介します。老後も賃貸物件に住み続けるか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
ライフスタイルに合わせて住み替えができる
老後のライフスタイルの変化は、必ずしも計画どおりに進むとは限りません。賃貸物件に住んでいれば、ライフスタイルの変化に合わせて自由に住み替えが可能です。
また、憧れていた街やアウトドアなどの趣味に適した場所といった、現役時には実現が難しい物件の選び方もできます。老後の世界を広げられる点が、賃貸物件のメリットの一つです。
住宅設備の維持費用が原則かからない
給湯器やエアコンといった住宅に付随する設備は、いつか必ず故障します。持ち家の場合は修理や交換費用がかかりますが、賃貸物件であれば原則費用は必要ありません。賃貸契約書に記載されている内容にもよりますが、洗浄機能付き便座や食洗機といった設備もオーナー負担で修理できるケースがあります。また、持ち家の場合にかかってくる固定資産税も、賃貸物件では不要です。
住宅設備の故障はいつ発生するかわからないため、急な出費が負担となるケースもあります。住宅に関する突発的な出費を考えなくてよい点も、賃貸物件に住むメリットです。
近隣に気遣いなく生活できる
近隣とのわずらわしい付き合いが比較的少ない点も賃貸物件の魅力です。持ち家の場合は、分譲マンションであれば管理組合への加入が必要ですし、一戸建てでも近所付き合いなどがあります。人と関わることが苦手だったり、老後に体力が落ちてきて思うように地域の会合に参加できなくなったりすると、近隣への気遣いが苦痛になってしまうこともあるでしょう。
賃貸物件であれば、管理組合への加入が不要なほか、密な近所付き合いもありません。また、どうしても近所と折り合いがつかない場合、引越すという選択もできます。
【まとめ】持ち家がない人は老後の資金計画をしっかりと立てておく
持ち家がない人でも、老後に安定した暮らしは望めます。ただし、世間で話題の老後資金2,000万円のシミュレーションには、賃貸住宅の家賃は含まれていません。不安なく生活するためには、家賃を支払うための資金を準備しておくことが重要です。
また、物件によっては老後の賃貸契約が難しいケースもあります。持ち家がない人は、賃貸契約をしやすい年齢から老後の生活を考えて物件を選びましょう。
先行きが不透明な時代だけに、持ち家があってもなくても老後の生活は不安なものです。ライフスタイルがどう変化しても対応できるように、資金計画をしっかりと立てておくことが大切です。