経済産業省による国全体への経済効果が2.9兆円と試算されたことを受けて、大阪府と大阪市が府域への波及効果を初めて1.6兆円と公表しました。度重なる予算の追加、予定から遅れているパビリオンの誘致や建設などにより、試算結果に疑問を抱く方もいるのではないでしょうか。
一方、大阪万博のような大規模イベントが開催されると建設需要が高まるため、不動産市場には少なからず影響があります。不動産投資をしている方にとっては、周辺地域の地価の変動も気になるところです。
そこで、公式に1.6兆円と発表された大阪府周辺の波及効果について、不動産市場への影響も含めてさまざまな観点から詳しく解説します。
もくじ
経済効果の見込める大阪万博
万博開催予定地における地盤の問題や、会期中のアクセス問題など、大阪万博に対するネガティブな報道が相次いでいます。一方で、2024年4月12日に、初めて大阪府と大阪市から大阪万博の経済効果の金額が公式に発表されました。
国全体で2.9兆円とされるうちの56%にのぼる、1.6兆円もの経済効果が見込まれている理由を、万博に関する基礎知識とともに解説します。
そもそも万博とは?
日本国内だけではなく、世界各国で行われている万博。正式には国際博覧会と呼ばれ、国際博覧会条約に基づいて開催されています。5年に一度、世界の1都市で行われる万博は、さまざまな国の文化や技術を紹介しながら国際交流を図ることが目的です。
なお、万博の開催地は、170カ国のBIE(博覧会国際事務局)加盟国による投票で決められます。
参加国は、自国の技術や文化、風土などをアピールする場として万博を活用。また、世界各国の先端技術や個性あふれる展示を目当てに、開催国のみならず世界中から来場者が訪れます。
万博会場や周辺施設の建設ラッシュ
万博開催の経済効果の一つは、会場や周辺での建設需要によるものです。今回の発表では、府内での建設投資で5,732億円の効果があるとされました。万博の開催が決定した会場では、関連施設やインフラなどの建設ラッシュが始まります。
大規模なプロジェクトのため、元請けは大阪府内の企業とは限りません。しかし、実際に建築にあたるのは地元企業が多く、現場で働く人材も近隣から集められることになるでしょう。
今回の大阪万博の会場では、155ヘクタールにも及ぶ敷地に約160カ国のパビリオンが設置される予定です。また、周辺エリアでは、地下鉄の延伸といったインフラ整備や、国内外からの旅行者を見込んだ宿泊施設の建設も進んでいます。
宿泊施設の新規建設をけん引するのが、外資系の高級ホテルです。例えば、大阪市難波駅南側には、タイの高級ホテル「センタラグランドホテル大阪」が2023年7月に開業しました。ほかにも、シンガポールの高級ホテルやアメリカのヒルトン最上級ブランドのホテルも開業を控えています。
万博の建設ラッシュは、会場内だけではなく周辺地域の施設まで含めた一大事業です。経済効果も含め、新しく生まれ変わる大阪にも期待が寄せられています。
来場者による消費拡大効果
来場者による直接的な消費も、万博の大きな経済効果です。期間中の来場者の消費額は7,217億円にものぼると試算されています。万博の入場券売上、飲食や買い物といった消費で本当に達成できるのかと疑問に思う方もいるでしょう。しかし、万博来場者の消費は、会場内にとどまりません。
周辺施設への宿泊や飲食店での消費、さらには会場までのアクセス方法である公共交通機関の利用料も万博開催による経済効果です。約2,800万人と試算される入場者による、万博会場や大阪周辺での消費活動の影響は計り知れません。
また、運営や万博内外の関連イベントの影響も、3,233億円と試算されています。6か月に及ぶ開催期間中、多くのお金が運営や万博会場内外でのイベントに携わる企業とスタッフに支払われるはずです。
跡地利用も視野に入れた不動産価格の上昇
大阪万博は、すでに跡地の利用計画が決まっています。国内初の総合リゾート施設、いわゆるIR計画です。跡地の利用も決まっていることから、大阪臨海部と周辺の不動産価格上昇が期待されています。
万博の経済効果のうち、不動産価格の上昇について2つの観点からみていきましょう。
建設需要が高まれば不動産価格は上昇する
大阪万博によって不動産価格が上昇するといわれるのは、地域全体の建設需要が高まることが予測されているためです。不動産価格は、需要と供給のバランスによって変動します。土地や建物を買いたい人が多ければ、不動産価格が上昇するといった具合です。
大阪万博の開催地である埋立地の夢洲は、かつて「負の遺産」と呼ばれるほど手つかずの状態でした。しかし、万博会場としての利用が決まったことで、大きく変貌を遂げようとしています。
また建設需要は、会場の夢洲にとどまりません。大阪湾エリア全体で新規の開発や大規模な改修が進められているため、今後も不動産価格の上昇が期待されています。
IR計画を柱とした大阪万博の跡地利用
大阪万博の会場となる夢洲の北側エリアでは、2029年の開業を目指してIR(総合型リゾート)施設の開発が進められています。IR計画地には、カジノのほか3つのホテル、国際会議場、アートミュージアムなどを含めた大型総合施設が開業する予定です。
もともと万博での需要を見込んだ宿泊施設の建設需要ですが、跡地利用が決定していることから、さらに需要が加速しています。また、施設内で働く従業員の増加によって、マンションや宅地、商業施設など副次的な需要が高まっていることも地価を上昇させる一因です。
IRの完成によって、ホテルの利用や施設への来場が見込まれており、大きな集客効果が期待できます。施設内で働く従業員も増えるため、大阪万博の閉幕後も継続的な発展が見られるでしょう。
さらに、大阪湾エリアには、夢洲のほかにも舞洲、天保山・築港地区・此花西部臨海地区、咲洲といった埋立地があります。立地を生かした施設や国際交流の拠点など大阪市によるまちづくり構想が立ち上げられているため、地価は今後も上昇する見込みです。
大阪万博閉幕後の経済見通し
大阪万博による特需や経済効果だけではなく、閉幕後の経済動向も気になるところです。万博だけが成功しても、長期的な意味での経済効果とはいえません。
他地域での万博の実績を振り返りながら、大阪万博閉幕後の経済見通しをみていきましょう。
過去の万博による経済効果
過去の万博を振り返ると、経済効果は一過性のものではないようです。国内で開催され、記憶に新しい万博といえば2005年の愛・地球博です。万博開催時には、東海地方を中心に宿泊施設や近隣店舗の売上が上昇し、有効求人倍率も良化。愛・地球博の経済効果は、施設建設以外の近隣交通基盤なども含めると3兆5,000億円にものぼりました。
また、街の活性化は一時的なものではなく、2009年のリーマンショックまで上昇が続きました。景気動向に直結する鉱業、製造業全体の指数が上がったためと言われています。愛・地球博は、東海エリアの経済を長くけん引していた存在と言えるでしょう。
万博後の経済動向は不確定要素が多い
万博の開催によって、大きな経済効果がもたらされることは間違いなさそうです。しかし、閉幕後に関しては、開催地域のみならず国内や世界情勢などさまざまな要因が絡んでくるため明確な予測はできません。
不確定要素の多い万博閉幕後の経済動向ですが、大切なのは万博跡地をいかに有効利用するかです。大阪万博の場合は、閉幕後のIR計画や臨海部のまちづくり構想が、跡地利用として決定されています。継続的な人の流れを確保して、閉幕後も経済効果が続くことに期待したいものです。
【まとめ】大阪万博の経済効果はすでに始まっている
2025年4月の開催予定まで1年を切った大阪万博ですが、経済効果はすでに発生しています。会場の夢洲では、施設やパビリオンの建設が始まっているためです。また、日本初のIR施設という跡地利用が明確になっていることもあり、会場周辺や大阪市内ではホテルの開業が相次いでいます。
さらに、見込まれるのは会場建設や来場者による直接的な経済効果だけではありません。工事にあたる方の宿泊や食事、休日の買い物など、周辺地域には直接的ではない影響も少なからずあります。
さまざまな問題が報道されており、先行きが不透明な部分もまだありますが、不動産価格の上昇も含めて大阪周辺の今後の動向から目が離せません。