土地活用の問題を解決する手段の一つが分筆です。不整形地や複数の権利者によって共有されている土地は、思いどおりに活用できないケースがあります。分筆は地目や権利関係を整理して、土地を活用しやすくするための手続きです。
この記事では分筆の意味や手順、メリット・デメリット、分割との違いについて詳しく解説します。
もくじ
分筆とは?
「筆(ひつ・ふで)」とは、土地を数える際に使われる単位です。分筆によって、一筆の土地を二筆以上の区画に分けて権利を明確にします。
まずは意味合いや分割との違いなど、分筆の基本的なことからみていきましょう。
登記簿上で土地を分割できる
分筆とは、境界線を変えずに一つの大きな土地を複数の区画に分けるための仕組みです。分筆されたそれぞれの区画に新しい地番を付与し、所有者や権利関係を明確に登記します。共有地を相続した場合や、複数の所有者が同じ土地を共有している場合に、分筆は複雑な土地を整理できる有効な手段です。
ただし、分筆して登記をするためには、分筆する土地の境界が確定していなければなりません。境界線が確定していない場合は、測量や調査が改めて必要です。
分割との違い
分筆と混同しやすい土地の整理方法に「分割」があります。分筆との違いは、登記をしなくても任意の区画で敷地を区分けできる点です。手続きの手間や時間、費用をかけることなく土地を分けられます。分割したそれぞれの土地で、建築法を満たした建物を建築できることがメリットです。また、分割であれば、既存の地番をそのまま使用できます。
ただし、登記上は一筆のままになるため、分割されていることはわかりません。共有されている土地の場合、分割では権利関係が明確にならない点に注意が必要です。
分筆とは逆の合筆もある
合筆とは分筆の逆で、二筆以上の土地を一筆にまとめる登記方法です。小さな土地を複数所有している場合に、合筆でまとめることで大きな開発ができるようになります。土地全体の形状を変えずにそれぞれの権利を維持しながら、一つの大きな土地として活用できる点が合筆のメリットです。
ただし、合筆をすると、元の分筆の状態には戻せません。土地の一部を売却する際には、再度分筆の登記をする必要があります。
分筆のメリット
土地を分筆すれば、複数の所有者や権利関係がある土地を区画に分けられ、土地の所有者や利用者がトラブルを避けて効率良く管理できます。また、土地利用の幅が広がったり、節税効果を得られたりする点も分筆のメリットです。
分筆によって得られる3つのメリットについて詳しくみていきましょう。
権利関係が異なっていても登記できる
分筆をすると、複数の権利者で共有する土地の権利範囲を明確にできます。一筆の土地では、土地の一部を利用する際に権利者全員の合意が必要です。分筆をすることによって、土地の利用方法を自由に決められるようになります。
また、共有の土地でなくても、利用範囲を明確にしたい場合に分筆は有効です。たとえば、広い土地の一部にローンを利用して住宅を建てる場合、一筆の土地では土地全体に抵当権が設定されてしまいます。分筆によって土地を分けておけば、住宅の建っていない土地にまで抵当権が設定される心配がありません。ほかにも、一部の土地だけの売却や、遺産分割などでも分筆は活用できます。
地目を複数に分けられる
使用目的に応じて地目を分けられる点も、分筆の大きなメリットです。土地には「地目」と呼ばれる用途が設定されており、地目以外の目的では利用できません。不動産登記法によって、田・畑・宅地・山林・原野・雑種地など23種類の地目が定められています。
たとえば、所有する山林の一部に自宅を建てたい場合、地目が「山林」のままでは建築許可がおりません。そこで、住宅に使用する土地を分筆して、地目を「宅地」に変更すれば問題なく自宅を建築できます。同じく、山林の一部を「畑」として分筆すれば、農業を始めることも可能です。ただし、一部の地目変更は、関連法や管轄機関による許可が必要となる場合もあります。
節税につながる
節税は、土地を分筆する意外なメリットです。固定資産税や都市計画税、相続税や贈与税といった税金は、土地の評価額によって決定されます。分筆によって所有する土地の一部の評価額を下げれば、全体としての課税額を抑えることが可能です。
評価額に影響する路線価は、土地が面している通りや利便性によって決まります。つまり、分筆をして評価額の高い通りに面する土地を小さくしてしまえば、課税額が下がるということです。また、通りに面さない土地や、複雑な形状で利用しにくい土地は利便性が低いため、そもそも評価額が下がります。
分筆のデメリット
メリットしかないと思われる分筆ですが、実は良いことばかりではありません。特に評価額の低下や固定資産税の上昇といった、お金に関するポイントは気になるところです。
分筆によるデメリットを詳しくみていきましょう。
売却が困難になることによる評価額の低下
分筆をして土地の面積や形状が変化すると、土地の評価額の低下につながるケースがあります。たとえば、住宅の建築に必要な部分を分筆して、残りの土地が小さく利用しにくい形になった場合です。住宅用地部分の評価額は変わらなくても、残った土地の価値は大きく下落するため、結果的に所有する土地全体の評価額が下がってしまいます。
分筆をする際は、使用する部分の形状や面積だけではなく、残される部分も含めて土地全体の評価額を考慮した計画を立てましょう。
固定資産税の上昇
分筆の仕方によっては、固定資産税が上昇する場合もあるため注意が必要です。住宅用地は、固定資産税の軽減措置が適用されます。しかし、建物の建っていない土地を分筆すると、その部分は軽減措置を受けられません。
ただし、土地の形状によっては建物のない部分を分筆したほうが、全体としての評価額が下がるケースもあります。分筆をする際は、評価額の下落と軽減措置の有無による影響を事前にしっかりと比較しておきましょう。
手続きに手間がかかる
手続きの時間と手間、費用のかかる点が分筆の大きなデメリットです。分筆をする際は、申請に必要な資料の取得や法務局での手続きに手間がかかります。また、手数料に当たる登録免許税や各種書類の作成費用も必要です。さらに、土地の境界を明確化するために測量が必要なケースでは、測量に関連する費用も発生します。
分筆の手続きには、最短で10日程度、最長で2~3カ月程度かかります。分筆をする際は、余裕を持ったスケジュールで進めることが大切です。
分筆の手順と費用
分筆登記は、誰でも法務局で申請できます。しかし、書類作成や測量の手配にはかなり専門的な知識が必要となるため、専門家に依頼するのが安心です。
分筆の進め方と費用のかかる項目について詳しくご紹介します。
分筆の進め方
分筆をするには、実際の申請までに多くの手続きが必要です。一般的には、土地家屋調査士に依頼して手続きを進めます。分筆登記を申請するまでの大まかな流れは以下のとおりです。
- 土地家屋調査士への依頼
- 法務局・役所で資料による調査(公図・地積測量図・登記事項証明書・確定測量図など)
- 測量前現地予備調査
- 現地立ち会い
- 境界(筆界)確認成立
- 分筆案の作成
- 境界確定測量
- 境界標の設置
- 登記書類作成・登記申請
分筆の費用
分筆をする際は、登録自体にかかる費用のほか、書類作成や測量といった専門家への依頼費用も発生します。必要となる費用は以下のとおりです。
- 登録免許税
- 測量費
- 筆界確認書作成費
- 官民境界確定図作成費
- 境界標設置費
- 登記申請費
登録免許税は、分筆後の筆数×1,000円と決められています。一方、登録免許税以外の費用は、手続きを代行する土地家屋調査士への報酬です。
報酬額は土地家屋調査士によって異なります。少しでも費用を節約したい場合は、複数の土地家屋調査士に見積もりを依頼して比較しましょう。
【まとめ】分筆とは土地の権利や地目を明確にする登記方法
権利関係が複雑な場合や現在の地目によっては、土地を自由に活用できません。分筆によって権利範囲や必要な部分を明確に分けることで、土地を有効に活用できるようになります。たとえば、地目が「畑」の土地のうち、現在使っていない部分の地目を「宅地」にすれば、自宅を建築することが可能です。
一方で、分筆の手続きには専門的な知識が必要となり、手間や費用もかかります。分筆をする際は、専門家である土地家屋調査士に依頼して進めましょう。