不動産投資で利益を得たときや、物件を売却した後は「減価償却」のルールを利用する必要があります。法律の知識も必要な部分ですが、具体的な仕組みや計算方法が分からず不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、不動産投資における減価償却の取り扱いについて詳しく解説します。要否を判断する基準もご説明するため、実践にも活用できるでしょう。後半では、定額法を例に挙げた計算方法もご紹介します。
もくじ
不動産投資における減価償却とは一体?
減価償却には複雑な規定があるため、基礎的な知識を身につけることが大切です。あいまいなまま進めると間違いに気付かない可能性もあるため、基本概念と仕組みをしっかり理解しておきましょう。
不動産投資における減価償却の重要性も踏まえ、押さえておきたい基礎知識を詳しく解説します。
減価償却とは
現物資産である不動産は、「新築から年数が経過するほど価値が下がる」という考え方が原則です。
法律では、さまざまな現物資産に対して「どのくらいで価値がなくなるか」を定めています。これが「法定耐用年数」といわれる公的な数字です。
減価償却を行う際は、法定耐用年数が重要な要素となります。あらかじめ定められた年数を反映して、価値がなくなるまでの年数で購入費用を分割するルールです。
例えば、住宅用に建てられた木造アパートの法定耐用年数は22年に決められています。厳密な法定耐用年数は、同じ構造でも用途によってさまざまに規定されているものです。
減価償却は購入費用を分割するものであり、物件によって法定耐用年数が変わる点を押さえておきましょう。
減価償却の仕組み
投資用の不動産だけでなく、収支に影響する資産にも減価償却が反映されます。会社で使用しているパソコンやプロジェクターなどが代表的な例です。
法定耐用年数が4年のパソコンを40万円で購入した場合、毎年10万円ずつ償却していきます。資産の価値が一度に失われるのではなく、経年とともに適切な金額にしていく仕組みです。
資産の価格が高額なほど、短期間で資産価値が減少することを防止してくれる法律ともいえるでしょう。
ただし、家庭用に購入した物は減価償却の対象に含まれません。不動産投資で重要視されるのは、家賃収入や物件の売却で利益が発生するためです。「利益に影響するかどうか」が基準になる点を理解しておきましょう。
不動産投資で減価償却が必要となるケース
投資活動の状況によっては、減価償却が不要になる場合もあります。必要なときに見逃すと、後の申告作業が複雑になるかもしれません。
状況に応じて減価償却の要否を見極められるよう、判断基準を明確に知っておきましょう。減価償却が必要となる2パターンのケースについて、ひとつずつ解説します。
不動産収入があるケース
原則的に減価償却が必要となるのは、投資家自身が利益を得た場合です。法律では「不動産所得」の項目に区分されます。定期的に得られる家賃収入の他、以下のお金も所得の一部です。
- 承諾料・更新料など
- 敷金や保証金(返還しない分)
- 管理費や共益費(共用部分の電気代・清掃代など)
複数の項目を合算するため、漏れのないよう注意しましょう。減価償却費以外には、以下の費用も経費として差し引きます。
- 固定資産税
- 損害保険料
- 修繕費
減価償却は、1年間に一度の確定申告で重要な項目です。記入漏れや計算ミスがあると、税務署から注意を受けることもあります。減価償却以外にも注意しながら正確に算出しましょう。
不動産を売却するケース
投資活動の一環として物件を売却すると利益が発生します。この場合、法的に該当する費用項目は「譲渡所得」です。
不動産取得とは異なるルールが定められているため、別の要素として理解したほうが良いでしょう。譲渡所得は、以下の式に当てはめて算出できます。
計算式に含まれる「取得費」は、減価償却費を差し引いた数字を反映するルールです。購入時の金額をそのまま当てはめないよう注意しましょう。
減価償却を反映したことによって、譲渡所得がマイナスになるケースもあります。このような場合には、確定申告で赤字を報告すると税金の還付が可能です。
全てが対象となるわけではありませんが、利益が発生しない売却手続きでも申告は重要といえます。
中古物件の場合の減価償却の特徴
一般的な減価償却の考え方と異なるのが、中古物件に投資を行う場合です。特定の法定耐用年数を用いる新築物件に対し、中古物件では「何年使用できるか」を元に耐用年数を見積もります。
このとき重要なのが「簡便法」といわれる計算方法です。中古物件に投資する時点での築年数によって、以下のように耐用年数を算出します。
法定耐用年数以内 | 耐用年数 =(法定耐用年数-築年数)+ 築年数 × 20% |
---|---|
法定耐用年数以上 | 耐用年数 = 法定耐用年数 × 20% |
ただし、全ての中古物件に簡便法を用いるわけではありません。耐用年数の見積りが困難であると判断された場合、公的な算出方法として活用するルールです。
中古物件の不動産所得や譲渡所得の申告時には、新築物件の法定耐用年数をそのまま反映しないよう気をつけましょう。
不動産投資の節税に減価償却が必要な理由
減価償却を行うと、税金面のメリットにつながることがあります。節税対策として有益な方法でもあるので、赤字になった時期も適切に計算するのがおすすめです。
減価償却の特性を理解して、節税効果を実感できるよう「なぜ必要なのか」を知っておきましょう。2つの項目に分けて、減価償却で得られるメリットを解説します。
経費として活用できるため
購入した資産そのものが経費と計上される点が、減価償却特有の利点です。通常、業務中の接待費用や事務用品の購入費用などが経費として計上されます。一方、減価償却費は「実際には支払っていないお金を経費として計上できる」というイメージです。
支出を伴わずに経費が計上されるため、税金の節約効果を実感できるでしょう。不動産投資では構造によって耐用年数が異なるため、節税効果が何年間に及ぶのか把握しておくのもおすすめです。
期間に注目すると、木造よりも鉄筋コンクリートのように高耐久な物件が有益といえます。対して、1年間当たりの節税効果は木造のほうが高まるでしょう。節税効果を目的に投資を検討している方は、減価償却の側面も重視することが大切です。
損益通算による節税が行えるため
不動産投資を行う前の段階では、「赤字が続いたら……」と不安に思うこともあるでしょう。初期費用には100万円以上を負担するケースも多く、運用が安定するまではマイナスが続くかもしれません。このような場合、「損益通算」を行うと税金の節約につながります。
本業で受け取っている給与所得から投資でのマイナス分を差し引き、収入額全体を減らして申告する方法です。会社員の場合は源泉徴収ですでに納税しているため、所得額が少なければ確定申告書の提出で還付を受けられます。
つまり、マイナスになった金額分は所得税の対象から外される仕組みです。損失が大きいほど節税効果も高まるので、計算方法を理解した上で書類を作成しましょう。損失が出やすい初期段階では、特にメリットを感じやすい方法ともいえます。
不動産投資の減価償却の期間
減価償却の要素となる法定耐用年数は、個人的な判断で決められるものではありません。国税庁が定めた細かい区分を把握し、投資する物件に適した数字を反映しましょう。
住宅用の建物では、構造によって以下の法定耐用年数が定められています。
住宅用 | 飲食店用 | 事務所用 | 工場用 | |
木造や合成樹脂造 | 22年 | 20年 | 24年 | 15年 |
木骨モルタル造 | 20年 | 19年 | 22年 | 14年 |
鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造 | 47年 | 34年〜41年 | 50年 | 38年 |
レンガ造など | 38年 | 38年 | 41年 | 34年 |
物件の用途や材質の他、細分化される項目はさまざまです。敷地面積によって年数が変わるものもあるため、計算の際は確実な数字をピックアップしておきましょう。
不動産投資での減価償却費の計算の仕方
近年の不動産投資では、減価償却費の計算において「定額法」を用いるケースがほとんどです。
償却の限度額を算出する際には、耐用年数ごとに定められる「定額法償却率」の情報も必要となります。以下に具体的な例を挙げるので、算出までの流れを把握しておきましょう。
計算式 | 償却限度額(定額法)=取得価額(建物にかかる費用)×定額法償却率 |
---|---|
条件 | 取得価額4,000万円の木造アパートを購入 |
計算方法 |
・法定耐用年数:22年 ・定額法償却率:0.046 ・償却限度額:4,000万円 × 0.046 = 184万円 |
上記の条件であれば、「22年間かけて184万円ずつ償却する」という結果です。必要な情報が分かれば比較的簡単に求められるため、投資先が決まった段階でシミュレーションしてみると良いでしょう。
また、定額法の他に「定率法」といわれる計算方法もあります。不動産投資においては、原則的に建物へ反映することはありません。土地やその他の現物資産には活用できるので、以下の計算式を押さえておきましょう。
まとめ
不動産投資を実践する上で、事前に理解しておきたい要素のひとつが「減価償却」です。
不動産所得が発生したり、売却したりする際には減価償却を算定する必要があります。中古物件との相違点も明確にし、適切な計算方法を押さえておきましょう。
年間の投資活動でマイナスになった場合でも、確定申告で節税効果を得られる可能性があります。