不動産投資をするうえで必ず目にする「取引態様(とりひきたいよう)」。不動産取引に関わる重要な用語ですが、詳しい内容までは知らない方もいるのではないでしょうか。
取引態様は種類によって、契約条件や手数料が大きく変わります。不動産売買では取引金額が大きくなるため、取引態様による違いをしっかりと理解しておきましょう。
本記事では、不動産売買や賃貸の契約をする際に知っておきたい、取引態様の基礎知識とメリット・デメリットについて解説します。
もくじ
3種類の取引態様とは?
取引態様とは、不動産取引を任せる宅地建物取引業者の立場のことです。投資物件の購入に始まり貸出や売却まで、さまざまな不動産取引に関わる宅地建物取引業者。一般的には不動産業者といわれますが、間違いのない取引をおこなうために欠かせない存在です。
取引態様について、宅地建物取引業者の立場の違いを明らかにしながら詳しく解説します。
取引態様は宅地建物取引業者の立場の違い
取引態様とは、宅地建物取引業者の不動産取引への関わり方を示します。宅地建物取引業者の取引態様は「売主」「買主」「貸主」「代理」「媒介(仲介)」の5つです。
宅地建物取引業者が不動産取引をする際には、必ず取引態様を明示しなければなりません。物件の広告掲載時や取引の受注時だけではなく、取引態様が変更された際にも明示が義務付けられています。明示を怠ると業務停止処分が下されることもあるほど、取引態様は不動産取引において重要です。
また、取引態様の種類によって、不動産価格の決定権や報酬の有無などが変わります。不動産取引をする際にトラブルが発生しないよう、取引態様は契約前に必ず確認しておきましょう。
売主・買主・貸主
取引態様が「売主」「買主」「貸主」のいずれかになっている場合、その不動産は宅地建物取引業者が直接関与します。例えば「売主」や「貸主」となっている物件は、宅地建物取引業者が自社で仕入れた不動産を、仲介の不動産会社へ通さず販売したり賃貸に出したりします。大手の総合不動産が取り扱う新築分譲マンションや新築戸建、リノベーション済み物件などによく見られるケースです。
また、宅地建物取引業者が「買主」となることもあります。不動産投資家が所有しているマンションを早急に売却したい場合、買取専門業者や宅地建物取引業者が買い取るケースです。
代理
売主からの依頼により、宅地建物取引業者が売主に代わって取引することを「代理」といいます。代理の宅地建物取引業者は、物件の広告掲載から販売活動、契約に至るまでの一切をおこないます。例えば、新築分譲マンションを代理販売する際は、売主の関連会社や販売力のある地元の不動産会社が担当することが一般的です。
なお、代理権を持つ宅地建物取引業者との契約締結は「代理契約」と呼ばれ、売主と買主の直接取引と同じであるとみなされます。
媒介(仲介)
媒介(仲介)は、不動産取引でもっとも多く見られる取引態様です。媒介(仲介)の依頼を受けた宅地建物取引業者は、売主と買主の間に立って取引成立に向けて活動します。不動産投資で取得した賃貸物件を貸し出す際は、ほとんどが媒介(仲介)です。
媒介(仲介)契約も3種類
3種の取引態様のうち、媒介(仲介)契約はさらに3種類の契約形態に分かれます。媒介は不動産投資でもっとも関わることが多い取引態様のため、契約形態の違いもしっかりと理解しておきましょう。
3種類の媒介契約の特徴と違い、適した物件について解説します。
一般媒介契約
一般媒介契約は、3種類ある媒介(仲介)契約のなかでもっとも制約がありません。複数の宅地建物取引業者への依頼が可能となり、自身でも買主を見つけられます。
売主側の自由度の高さがメリットですが、宅地建物取引業者から活動報告をする義務がないため進捗状況を把握しにくい点はデメリットです。さらに、活動をしても必ず自社の契約とならないことから、不動産業者内での優先度が下がるおそれもあります。契約時には条項に活動報告の旨と、国土交通省指定の指定流通機構(通称「レインズ」)への登録を盛り込んでもらいましょう。
一般媒介契約は、人気エリアでの不動産取引を依頼する場合に向いています。複数の業者間で競争意欲が増し、より良い条件で契約にたどり着ける可能性があります。
専任媒介契約
専任媒介契約は、不動産取引で比較的多く結ばれる媒介(仲介)契約です。専任媒介契約では、売主は1社の宅地建物取引業者にしか媒介を依頼できません。また、引き受けた宅地建物取引業者の活動には、レインズへの登録と2週間に一度以上の報告義務が課されます。
専任媒介契約は他社で契約されるリスクがない分、手厚い活動に期待できる点が大きなメリットです。物件の取引相手をしっかりと探してほしい人に適しています。
ただし、ほかの宅地建物取引業者に依頼できない専任媒介契約ですが、売主自身で買主や借主を見つけることは自由です。
専属専任媒介契約
専属専任媒介契約は、3種類ある媒介(仲介)契約でもっとも制約が多い契約形態です。売主は1社の宅地建物取引業者にしか依頼できず、売主自身が買主を見つけて取引すること(自己発見取引)もできません。
一方、専属専任媒介契約を締結すると、5日以内にレインズへ登録され、早急に売却活動を始めてもらえるメリットがあります。また、1週間に一度以上の業務処理の報告義務があるため、売主は販売活動を頻繁に把握できる点も特徴です。
専属専任媒介契約は積極的に売却活動をしてもらえるため、都心部から外れた競争率の低いエリアの不動産を取引したい場合に適しています。
取引態様それぞれのメリット・デメリット
取引態様によって特徴が異なるため、不動産投資をする際にどの取引態様にするべきか迷ってしまう方は多いでしょう。手数料の有無や額も大きく変わってくるため、違いをしっかりと理解しておくことが大切です。
そこで、3種の取引態様それぞれの、メリット・デメリットをご紹介します。
売主・買主・貸主
不動産取引では、取引額に応じて仲介手数料を支払うのが一般的ですが、取引態様が「売主」「買主」「貸主」の物件は、直接取引となるため仲介手数料はかかりません。
一方、当事者間を仲介する専門家がいないことから、不動産のプロと直接交渉しなければならない点がデメリットです。不動産取引の経験が浅い初心者の場合は、取引が不利になるケースもあるため注意しましょう。
代理
「代理」のメリットは、取引の手間がかからないことです。不動産売買は、契約に至るまでさまざまな工程や手続きがあります。代理契約では複雑な作業をすべて宅地建物取引業者に任せられるため、時間や労力をかけずに不動産取引を完結できます。
一方、代理契約は、ほとんどの場合で媒介(仲介)よりも手数料が高くなります。売主は業務委託手数料を支払いますが、金額の相場は仲介手数料のおよそ2倍です。
また、買主側が手数料を請求されることはないものの、手数料分が物件の販売価格に含まれているケースがあります。取引態様が代理の場合は、取引全体の金額を把握しましょう。
媒介(仲介)
売主と買主、または貸主と借主の間に立って取引を進める媒介(仲介)契約のメリットは、宅地建物取引業者のサポートを受けながら契約できることです。不動産取引では法律用語や専門知識が必要となり、個人で対応するのは簡単ではありません。不動産の専門家に難しい手続きを任せることで、安心して不動産売買を進められます。
しかし、仲介手数料がかかる点が、取引金額によっては大きなデメリットです。仲介手数料は成約価格の割合で決められていることが多いため、取引額が大きくなるほど支払う手数料も多額となります。
【まとめ】取引態様の意味を理解して不動産投資を円滑に進める
不動産投資家のビジネスパートナーともいえる宅地建物取引業者。宅地建物取引業者の立ち位置を示す「取引態様」は、不動産投資をするうえで必ず知っておくべき用語です。
取引態様の種類は「売主」や「代理」など複数ありますが、もっとも一般的な媒介(仲介)契約は、さらに3つの種類に分かれています。どの契約も、それぞれ性質や手数料などが異なるため、不動産取引でのトラブルにつながらないよう、しっかりと違いを理解しておきましょう。