マンションを購入すると、修繕積立金の支払いが必要です。また、修繕積立金の金額は、一般的に築年数が経過するにしたがって新築時から値上げされていきます。従来はマンションごとに金額を自由に決めていましたが、2024年2月に国土交通省が修繕積立金の値上げ幅の基準を示しました。
そこで今回は、国土交通省が示した、修繕積立金の相場や値上げ幅について詳しく解説します。
もくじ
修繕積立金の値上げ幅を国土交通省が示した
2024年2月27日、国土交通省はマンションの修繕積立金を段階的に値上げする場合の値上げ幅を、当初の金額の最大1.8倍までとする方針を示しました。
基準額も含めて、修繕積立金の値上げ幅の上限と下限について詳しくみていきましょう。
修繕積立金の基準額
修繕積立金の基準額は、必要となる修繕費用を積み立てる期間で均等に割って算出した金額です。マンションは一般的に12〜15年程度で大規模な修繕工事をおこなうため、積立期間は180か月前後となります。
一方で、築年数の経過に応じて修繕積立金が増えていく「段階増額積立方式」を採用しているマンションも少なくありません。段階増額積立方式では、当初の金額からの最終的な値上げ幅が不明確なため「均等積立方式」による基準額が定められました。
値上げ幅の上限は当初の1.8倍だが条件がある
国土交通省は、修繕積立金の値上げ幅の上限を1.8倍にすると示しました。ただし、実は基準額に対しての値上げ幅の上限は、1.1倍以内とするよう推奨されています。新築マンションでは、購入時の負担を減らすために修繕積立金が低く設定されているケースも少なくありません。上限の1.8倍は、基準額に対してではなく、新築時の低い修繕積立金に対する最大の値上げ幅です。
例えば、基準額が15,000円のマンションの場合、値上げの上限金額は16,500円までです。1.8倍というと大きな金額に思えますが、実際にはマンションオーナーの負担が大きくなりすぎないよう配慮されています。
新築時については0.6倍という下限
値上げ幅の上限だけではなく、新築時の修繕積立金の下限についても国土交通省は示しました。新築マンションでは、維持費をより安くみせるために修繕積立金を極端に安くしているケースもあります。しかし、実際に必要な修繕費用を確保するためには、購入後に大きく値上げせざるを得ません。そこで、新築時の下限額を、基準額の0.6倍までとしました。
値上げ幅の上限が基準額の1.1倍、新築時の1.8倍となっているのは、0.6倍という下限も含めた基準です。例えば、基準額10,000円のマンションの場合、新築時の下限6,000円を1.8倍にすると、ほぼ基準額の1.1倍と同額の10,800円になります。
国土交通省の管理計画認定制度に盛り込まれる予定
2024年2月27日に国土交通省が示した修繕積立金の値上げ幅の上限・下限は、地方公共団体が運営する管理認定制度に盛り込まれる予定です。管理計画認定制度により、マンション管理適正化法に基づいて適切な管理がおこなわれているマンションを認定しています。
法的な義務はないものの、認定を受けることでさまざまなメリットを得られます。特に、適正な運営をしているマンションとして市場価値が維持されやすくなることは、オーナーにとって重要なポイントです。
修繕積立金の相場と値上げの理由
修繕積立金の相場は「完成年次」「総戸数規模」「地域」の3つの要素によって変わってきます。また、当初安く設定されていても、段階的な値上げ計画のある場合や、値上げせざるを得ないケースもあるため注意が必要です。
修繕積立金の相場や値上げの理由について、具体例を挙げながら詳しく解説します。
3つの観点でみる修繕積立金の相場
修繕積立金の相場は「完成年次」「総戸数規模」「地域」の3つの要素から目安となる金額を算出できます。国土交通省が公表している「平成30年度マンション総合調査」を参考にして、修繕積立金の相場をみていきましょう。
完成年次
修繕積立金の相場に影響を与える要素の一つは、完成年次、つまり築年数です。築年数の経過にしたがって大規模な修繕工事が必要になるため、一般的に古いマンションほど修繕積立金が高くなる傾向があります。
総戸数規模
修繕積立金の金額は、総戸数規模の影響も受けます。必要になる修繕費用を、入居戸数で割って算出するためです。大規模や中規模のマンションでは、修繕積立金が低い傾向があります。ただし、大規模マンションでは共用部の設備が豪華な場合もあるため、戸数が多ければ安いとは一概にいえません。
地域
修繕積立金の相場には、地域差があります。「平成30年度マンション総合調査」によると、北海道・関東が高く、中国・四国が低いという結果でした。さらに、東京圏の修繕積立金の平均額は13,019円で、関東の平均額である12,973円を上回っています。
段階的に値上げする計画になっている物件もある
「段階増額積立方式」を採用するマンションでは、購入時から修繕積立金が段階的に値上げする計画になっています。ローンの支払いを含めてマンション購入の資金計画を立てる際は、修繕積立金の計画についても事前に盛り込んでおきましょう。
特に、今回の国土交通省の方針が示される前の物件では、新築時の修繕積立金の金額が極端に安いケースもあります。将来大幅な値上げがされるおそれもあるため、物件の取得前に修繕計画を確認しておくことが大切です。
当初計画とのズレによっても値上げされる
修繕計画が当初と変わった場合も、修繕積立金が値上げされる可能性があります。修繕積立金は、将来想定される修繕内容に合わせて設定されています。しかし、災害などによって修繕範囲が拡大したり、空室によって積立金が不足したりすると値上げせざるを得ません。
また、物価や人件費の高騰によって、想定した費用が膨らむケースも考えられます。マンションを取得する際は、修繕積立金が値上げされる可能性も加味して計画を立てましょう。
修繕積立金を支払えない場合の対処法とリスク
修繕積立金は、マンションを維持していくうえで欠かせない重要なお金です。支払いができない場合は、訴訟を起こされるおそれもあります。修繕積立金の滞納には、十分注意してください。
修繕積立金を支払えない場合のリスクを、対処法も含めて詳しくみていきましょう。
支払えない場合は管理会社への報告と相談
修繕積立金の支払いが一時的に難しい場合は、すぐに管理会社へ報告と相談をおこないましょう。管理会社が確認したい点は、最終的に修繕積立金を支払ってもらえるかどうかです。報告・相談がないと、事情があって支払えないのか、支払う意思がないのかを判断できません。
管理会社に修繕積立金を支払う意思があること、いつ支払えるのかを謝罪とともに伝えれば、訴訟などの法的措置を取らずに待ってもらえる可能性があります。
どうしても支払えない場合は売却も検討
修繕積立金は、マンションを所有している限り発生し続けます。どうしても継続して支払えない場合は、マンションの売却を検討しましょう。また、修繕積立金を滞納していると、マンション売却の際に不利となることがあります。未納の修繕積立金は、オーナーが変わっても引き継がれるためです。
あまりに多額の修繕積立金を滞納していると、売却金額が下がるだけではなく、買い手がつかないおそれもあります。支払えないと判断した場合は、滞納金額が膨らむ前に売却の手続きを進めるのも速やかな解決方法の一つです。
場合によっては訴訟に発展するおそれがある
修繕積立金を滞納すると、訴訟に発展するおそれがある点に注意が必要です。賃貸物件の家賃ではないため、すぐに退去を迫られることはありません。しかし、訴訟に発展すると財産を差し押さえられたり、物件自体を競売にかけられたりするリスクがあります。
修繕積立金を支払えなくなった場合には、できるだけ早く管理会社に相談することが大切です。少なくとも支払いの催促や督促状などが届いたタイミングで、必ず連絡して対応方法についての指示を仰いでください。
【まとめ】マンション購入時には修繕積立金の計画も確認する
マンションの修繕積立金は、一般的に築年数が経過するほど値上がりしていきます。しかし、極端な値上げをすると、合意形成を取りにくくなるばかりか、支払いが困難になることが問題点でした。そこで今回、国土交通省によって示されたのが、値上げ幅の上限を1.8倍とする方針です。一方で、新築時の下限金額を基準額の0.6倍までとすることで、修繕積立金の安定化も図っています。
上限と下限の方針が示されたとはいえ、修繕積立金の変動は資金計画に大きな影響を与えかねません。マンションを購入する際には、修繕積立金の計画についても十分確認しておきましょう。