減損損失とはどんな会計処理なのかわかりやすく解説! 概要から具体的な流れまで詳しく紹介

減損損失とはどんな会計処理なのかわかりやすく解説! 概要から具体的な流れまで詳しく紹介|株式会社イー・トラスト

固定資産の投資に失敗し、利益回収が望めないときに「減損損失」という会計処理をするケースがあります。一方で、企業評価にダメージを負うリスクもあるため、減損損失をする際は慎重に判断することが重要です。
そこで今回は、減損損失の基本的な内容や処理方法、メリット・デメリットまでを詳しく解説します。

減損損失の概要

減損損失の概要

減損損失とは、資産価値を見直すための重要な会計処理です。一方で、どんな資産でも減損損失の対象となるわけではありません。まずは、処理の目的や対象となる資産といった減損損失の基礎知識をみていきましょう。

回収見込みのない資産価値を見直す減損損失

減損損失とは、減損処理によって見直された資産価値の損失額です。企業が固定資産への投資を回収できない事態に陥った際、帳簿上の価格を実際の資産価値に切り下げて正しい資産価値を計上します。その際の会計処理が「減損処理」で、見直してマイナスになった部分が「減損損失」です。
あくまでも会計上の処理であり、減損処理に際して現金の支出はありません。また、減損処理は義務ではないため、状況に応じて処理の要否を判断します。

減損損失の対象は固定資産

減損損失の対象となるのは、固定資産のみです。固定資産には、大きく分けて「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他資産」の3種類があります。それぞれの固定資産における代表例は以下のとおりです。

有形固定資産:物理的な形を持つ資産

例)建物、土地、機械装置、構築物、車両など

無形固定資産:具体的な形は持たないが、企業の利益創出に貢献する資産

例)ソフトウェア、営業権、のれん※など
  ※ のれん:M&Aにおいて、企業を買収する際に支払った金額と企業(事業)の純資産額の差額。ブランド力や技術力、人的資源といった非金銭的資産の価値を表す。

投資その他資産:有形固定資産・無形固定資産に該当しない資産

例)有価証券、関連会社株式、出資金、長期貸付金、長期前払い費用など

減損損失と臨時償却の違い

臨時償却は、減損損失と同じく固定資産の価値を減額させる会計処理の一つです。しかし、臨時償却は、考え方や処理方法が減損処理とは大きく異なります。減損処理が将来の価値に対する見直しに対して、臨時償却は過去の価値を引き直します。
臨時償却は、耐用年数と残存価値を見直す会計処理方法です。予測不能な原因によって耐用年数と残存価値が不合理となった場合に、耐用年数の短縮や残存価額の修正がおこなわれます。

減損損失のメリットとデメリット

減損損失のメリットとデメリット

減損処理をすると実際の資産価値に是正されるため、経営状態を正しく把握できるようになります。一方で、減損損失にはデメリットもあるため注意が必要です。
減損損失のメリットとデメリットを詳しく解説します。

メリットは翌年以降の利益を適切に把握できること

減損損失を計上する最大のメリットは、固定資産の価値を現実的かつ適正なものに調整できる点です。減損処理によって該当年度の損失は大きく増加しますが、本来は翌年度以降に引き継ぐべき費用ではありません。減損損失として利益が見込めない資産をすみやかに計上することで、翌年度以降の利益を適切に把握できるようになります。
減損処理により実際にキャッシュが増えるわけではありませんが、利益率が向上し、経営状態の健全性をアピールすることにもつながります。

企業評価にダメージを負うおそれがある点がデメリット

減損損失のデメリットは、企業の社会的評価が落ちるおそれがある点です。減損処理をした年に関しては、損失を計上した分だけ利益が削られてしまいます。計上金額によって赤字に転落すれば、銀行や投資家からの資金調達にも支障をきたす可能性があります。
資産価値の減少が見込まれる場合でも、必ずしも減損損失を計上する必要はありません。減損処理をする際は、計上額や内外への影響に対して慎重な判断が求められます。

減損損失をする際の具体的な流れ

減損損失をする際の具体的な流れ

減損損失を計上する際は「判定」と「計算」の大きく2段階の流れでおこないます。特に、損失の判定は減損処理の要否を判断する重要なポイントのため、専門家に相談しながら慎重に進めましょう。
減損損失をする際の処理方法や注意点を、2種類ある会計処理方法も含めて詳しく解説します。

資産をグルーピングして損失の兆候を判定

減損損失の有無を把握するために、まずは資産のグルーピングをおこないます。減損損失は個々の固定資産ではなく、独立した一つのキャッシュフローを生み出す資産をグルーピングして算出する決まりであるためです。
例えば、工場で製造機械を使用して製品を作っていた場合を考えてみましょう。製品を作り出している固定資産としては、以下が挙げられます。

  • 工場が建設されている土地
  • 工場の建物
  • 製造機械

上記の固定資産は「製品を作る」というキャッシュフローを生み出す最小単位としてグルーピングされます。
次に、グループごとに減損の兆候を判定します。減損の兆候とは、資産グループにおいて減損が生じている可能性を示唆する事象のことです。具体的な基準としては以下のようなものが挙げられます。

  • 資産を使用している事業の営業損益もしくは資金収支の赤字が2期以上継続している
  • 資産を使用している事業の経営環境が著しく悪化した
  • 資産の市場価格が著しく下落している
  • 資産の使用範囲または方法について、回収可能価額を大幅に低下させる変化がある

該当する資産グループが将来獲得する「割引前将来キャッシュフロー」※と帳簿価額を比較し、下回っていれば減損実施の必要性があると判断されます。減損の判断には専門的な知識が必要なため、公認会計士に相談しながら進めていきましょう。
※割引前将来キャッシュフロー:資産グループを利用続ける場合の資金収支と、資産グループの処分による資金収支の合算

減損損失の計算をする

減損兆候の判定により処理の必要性が生じた場合は、具体的な減損損失額を計算します。計算式は以下のとおりです。

減損損失額=固定資産の簿価-回収可能金額

回収可能金額は、一般的に「正味売却価額」と「使用価値」のどちらか高い方を算入します。

  内容 計算方法
正味売却価額 資産としての使用をやめ、売却した場合に得られるキャッシュフロー 資産グループの時価-処分費用見積額
使用価値 将来にわたり資産を使用し続けた場合に回収できるキャッシュフローの総額 n年後のキャッシュフロー÷((1+割引率)n)

会計処理の方法は2種類

減損損失を計上する方法には「直接控除方式」と「間接控除方式」の2種類があります。通常は直接控除方式を用いますが、間接控除方式での計上も容認されています。 それぞれの方式における会計処理の具体例は以下のとおりです。なお、いずれの方式でも減損損失は「特別損失」として計上します。

直接控除方式

取得価額から減損損失を直接控除する方法です。土地、建物、機械装置といった賃借対照表上の各項目の価値を減少させます。

借方 貸方
減損損失 300 土地 130
建物 100
機械装置 70

間接控除方式

取得価額を直接減額せず、代わりに「減損損失累計額」という項目を用いる方法です。賃借対照表上では固定資産価額の下に減損損失累計額を記載します。

借方 貸方
減損損失 300 減損損失累計額 300

【まとめ】減損損失は経営への影響を考慮して判断

【まとめ】減損損失は経営への影響を考慮して判断

回収見込みのない資産価値を正しく計上して利益を把握するために、減損損失の計上は有効な会計処理です。一方で、計上年には一時的に収益性が悪化するため、企業評価の低下につながりかねません。減損処理の要否は、経営状態や企業内外への影響を考慮して慎重に判断しましょう。
また、減損損失の兆候を判定するには、専門的な知識が求められます。適正な減損価額の算出も含めて、公認会計士などの専門家に相談することが大切です。減損損失の有無や内容を把握することは、株式投資などで企業価値を判断するうえでも役立ちます。
 
 

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