マンション経営などの不動産投資には、災害リスクが伴います。「火災で物件が全焼したらどうしよう」と不安に感じる方もいるかもしれません。火災をはじめとする災害に備える手段が、火災保険です。不動産投資を始めるなら、火災保険への加入は不可欠といえるでしょう。
そこでこの記事では、不動産投資における火災保険の特徴や注意点をまとめました。実際に火災が起きた際の保険金の請求方法もご紹介します。上手な火災保険の選び方だけでなく、保険金のスムーズな受け取り方も分かるようになるでしょう。
もくじ
不動産投資における火災保険の特徴
ここでは、不動産投資における火災保険の主な補償対象と付帯サービスを解説します。火災保険は火災による損害だけを補償するものではありません。自然災害・日常災害を幅広く補償する保険です。災害はいつ・どこで起きてもおかしくないため、万が一に備えておく必要があります。契約前に補償範囲や給付条件をよく確認しておきましょう。
【補償内容1】自然災害による損害の補償
火災保険に加入すると、自然災害による損害の補償を受けられます。例えば、火災・落雷・風災・雪災・雹災(ひょうさい)などです。自然災害の発生はコントロールできません。いつ・どこで・誰が被害を受けるか分からないのが自然災害の怖さでしょう。
補償範囲は損害の度合いによって決まり、給付金が100パーセント下りるときもあれば、半分しか下りないこともあります。場合によっては、一部自己資金が必要になるケースもあるでしょう。
【補償内容2】日常災害による損害の補償
火災保険は日常災害による損害の補償も受けられます。日常災害とは、自動車の衝突で建物が破損したり、空き巣被害によって窓ガラスが割られたりといった部類の災害です。
加害者が損害保険に加入している場合は、相手方に補償してもらえます。しかし、加害者が保険に加入しているとは限らず、無保険かつ支払い能力もないかもしれません。さまざまなリスクに備え、火災保険で自衛するのが得策です。
損害補償以外の付帯サービス
火災保険に加入すると、損害補償以外のサービスも付いてきます。例えば、生活トラブル系のサービスです。鍵を紛失したり、エアコンが水漏れしたりした場合、専用業者を手配してくれるサービスを利用できます。また、病院や介護施設の紹介の他、健康相談ができる医療サービスもあるのが特徴です。
付帯サービスは各社・商品によって異なるため、火災保険を選ぶ際に付帯サービスの充実度をチェックするのもよいでしょう。
不動産投資の火災保険で付けられる特約
不動産投資をしていると予期せぬ事態も起こるものです。災害や事故などで家賃収入が減ることもあります。そのようなとき、頼りになるのが特約、つまりオプションです。ここでは、不動産投資の火災保険で付けられる特約の種類と内容を解説します。さまざまなリスクに備えるなら、特約をうまく活用しましょう。
一定額の家賃補償を受けられる「家賃補償特約」
投資用物件が災害による被害を受けたとき、損壊の度合いによっては、修繕が終わるまで居住できません。空室になるのと同じで、家賃収入がストップします。家賃収入が止まると返済計画が狂い、給与や貯蓄から捻出せざるを得なくなるでしょう。
このようなときに役立つのが「家賃補償特約」です。物件が復旧するまでの期間、家賃で得られるはずだった収入の何割かを補償してくれます。ただし、補償期間には限度が設けられていることもあり、注意が必要です。給付条件はよく確認しておきましょう。
死亡事故による費用や損失の補償がある「家主費用特約」
投資用物件で死亡事故が起きた場合、当面の間はその対応に追われ、家賃収入がストップします。また、死亡事故が起きた部屋は入居者が敬遠する傾向があるため、家賃を下げざるを得ないかもしれません。
このようなリスクに備えるのが「家主費用特約」です。家賃の損失や清掃・脱臭といった原状回復費用、遺品整理等費用をカバーするのに役立ちます。高齢化に伴い孤独死の件数が増加している昨今、検討に値する特約といえるでしょう。
賠償金の補償がある「建物管理賠償責任特約」
「建物管理賠償責任特約」とは、賃貸に出している建物の欠陥やメンテナンス不足により、入居者などに損害を与えた際に発生する賠償金を補償する特約です。
例えば、階段の手すりが取れたせいで入居者が怪我をした場合や、ブロック塀が崩れて通行人が怪我をした場合などに適用されます。どんなにこまめにメンテナンスしていても、暮らしに関わるリスクはゼロにはなりません。損害賠償は高額になる恐れもあるため、積極的に検討したい特約のひとつです。
不動産投資における火災保険の注意点
火災保険の補償範囲は広く、不動産投資では非常に頼りになる保険です。しかし、補償範囲には限度があります。特に、地震による損害が補償範囲外なのは、勘違いされやすい点です。「こんなはずじゃなかった」という事態にならないためにも、補償範囲はきちんと把握しておきましょう。
浸水による損害は場合によっては補償されない
大雨や土砂災害で投資用の物件が床上浸水した場合は、火災保険で補償されるか分かりません。基本的には補償範囲内ですが、浸水の損害度によっては保険金が支払われないケースもあります。
給付金が下りるかどうかの条件は一般的に、床面・地盤面から45センチメートル以上浸水していることです。また、補償されたとしても、「修繕費用の30パーセント」など保険会社によって制約があります。以上から、「床上浸水で全額補償してもらえる見込みはない」と考えておいたほうがよいでしょう。
地震による火災は補償の対象外となる
地震により電気コードが断線して出火したり、熱を発する電化製品が倒れて布団に着火したりすることがあります。火災なので火災保険の補償範囲内のように思えますが、これは地震保険の守備範囲です。地震が原因で起きた損害を補償してもらうには、火災保険とセットで地震保険にも加入しておく必要があります。
地震大国の日本では、いつ地震が起きてもおかしくありません。火災保険の契約時には、地震保険も検討したほうがよいでしょう。なお、地震保険は政府が支援している関係で、どの保険会社から加入しても料金は同じです。
免責事項によって補償されない場合がある
保険には免責事項があります。あらかじめ保険金支払いの対象外と定めている事項があるため、契約時にはきちんと把握しておかなければなりません。事故や災害が生じても免責事項に該当していた場合、自己資金から捻出する他ありません。
免責事項の内容は各社・商品によってさまざまです。「戦争や騒乱を原因とするものは免責」など、共通している部分もありますが、独自に設けている免責もあります。請求段階になってがっかりしないためにも、約款や「契約のしおり」に目を通しておきましょう。
火災保険料によって収入が減る
さまざまなリスクに備えるために、火災保険の補償はなるべく手厚くしたいと考える方は多いかもしれません。ただし、補償を手厚くすればするほど、保険料は高くなる仕組みです。せっかく家賃収入があっても、火災保険料が高額では、手元に残るお金が減ってしまいます。
したがって、火災保険は補償内容とコストのバランスを考えて選ぶのがセオリーです。物件にとって本当に必要だと思う補償・特約を厳選しましょう。また、家賃収入で得た収益のうち、一定額はメンテナンス費用のために貯めておくことも大切です。
入居者にも火災保険に加入してもらう必要がある
いざというときのために、入居者にも火災保険に加入してもらう必要があります。災害によって建物に損害があった場合はオーナーの火災保険で対応できますが、入居者の家財に損害があった場合は補償対象外だからです。
また、入居者が加入する火災保険には「借家人賠償責任特約」を付けられます。入居者の過失が原因で貸している部屋が損害を被った場合、保険会社が原状回復費をカバーしてくれる特約です。
賃貸仲介を依頼するなら、入居者は借家人賠償責任特約付きの火災保険に加入することが義務付けられています。オーナーと入居者、双方の資産を守る意味でも重要な特約といえるでしょう。
不動産投資の火災保険料の目安や相場
火災保険のコストを抑えつつ、補償内容は充実させたいなら、火災保険金額は「建物時価の80パーセント」が適切だといわれています。保険会社の多くが、支払う保険金を「損害額×(保険金額÷[建物時価×80パーセント])」で計算しているためです。
建物時価が5,000万円の建物なら、4,000万円が目安になります。この建物に1,000万円の損害が出た場合を計算してみましょう。「1,000万円×(4,000万円÷[5,000万円×80パーセント])」で、1,000万円は満額補償される計算が成り立ちます。
保険料の相場は、ワンルームマンションなら地震保険や特約などを付けても年間約2万円程度です。ただし、マンション1棟買いの場合は月払いで10万円以上になるでしょう。保険料の違いは各社で大きな差はありませんが、念のため相見積もりを取って比較することをおすすめします。
不動産投資のための火災保険の選び方
ここでは、火災保険料の選び方を解説します。安心を求めるあまり「あれもこれも」と補償を付けてしまいがちですが、物件によっては不要な補償もあり、見極めが必要です。補償対象、補償範囲などを一つ一つチェックしながら、適切な火災保険を選びましょう。
補償対象を決める
保険は補償を手厚くすればするほど、保険料も高額になります。いくらまでなら保険料に回せるか、予算を決めておきましょう。
その上で、まずは補償対象を決めます。火災保険でいう補償対象とは、「建物のみ」「家財のみ」「両方」のいずれかです。守りたい対象が増えれば、その分保険料も高くなります。賃貸オーナーは両方を選ぶケースが多いでしょう。
補償範囲を決める
補償対象の次は補償範囲を決めましょう。自然災害にはさまざまな種類があります。火災や落雷などはどの物件でも起こる可能性がありますが、雪災や雹災(ひょうさい)は、物件の立地によっては必要ないかもしれません。
逆に、中層階以上のマンションには不要という見方もある水災は、近年の災害被害の増加を見ると安易に外せないでしょう。契約に元々含まれる補償は外せませんが、不要な補償や特約は付けないことでコストを削減できます。その補償は本当に必要なのか、不要であれば外せないのか、きちんとチェックしましょう。
保険の期間を選ぶ
火災保険の契約は1年から10年まであります。1年契約は、更新時に1年分の保険料を支払う契約です。長期間の契約は、数年分を一括で支払うことになります。
どちらが良いかは一概にはいえません。長期契約はまとめて払う分、割引が効きますが、ある程度まとまった資金が必要です。1年契約は短期的なコスト負担は軽めですが、長い目で見ると負担増になります。また、その年の自然災害が増えると翌年は値上がりするかもしれません。手持ちの資金に見合った保険期間を選びましょう。
補償内容や免責事項を確認する
火災保険は、何種類かの補償がパッケージになっています。自分にとって不要な補償は入っていないか、逆に不足している補償はないか、よく確認しましょう。
免責事項を確認することも大切です。例えば、重大な過失や法令違反、建物の経年劣化が原因で損害が生じた場合、保険金は支払われません。地震・津波・噴火などが原因の場合も同様です。免責事項の内容は保険会社によって異なることがあるので、しっかりと把握しましょう。
火災保険の保険金を請求する際に必要となるもの
火災保険の保険金を請求するには、さまざまな書類・手続きが必要になることがあります。必ずといってよいほど求められるものは次の6つです。
- 保険会社指定の請求書
- 事故内容報告書
- 損害箇所の現場写真
- 修理見積書
- 損害明細書
- 建物登記簿謄本(保険金額が500万円以上の場合)
これら以外に、印鑑証明書や罹災証明書が要る場合もあります。なお、損害の規模によって受け取れる保険金が変わるため、保険会社のスタッフが現場の確認・調査にやってくることもあるでしょう。
火災保険金の請求や修繕の手順は?
物件が損害を受けた場合、どのようにして火災保険金を請求するかの手順をご紹介します。大まかには、損害内容の確定、損害額の確定、保険金の受け取りという流れです。どのタイミングで修繕工事を依頼するかも併せて解説します。素早く、スムーズに保険金を受け取るために、手順に沿って迅速に行動しましょう。
1.被害箇所の写真を撮影する
まずは、被害を受けた箇所の写真を撮影しましょう。スマートフォンのカメラで構いません。角度を変えたり、引いたり寄ったりしながら、なるべくたくさんの写真を撮ります。建物のどの位置が損傷しているかがひと目で分かるような、全体写真も抑えましょう。
写真は被害状況を証明するために必要です。現場の状況がよく分かる写真がたくさんあれば、保険会社側の手続きもスピーディーになります。
2.損傷の拡大を防ぐ対策をする
損傷が広がる恐れがある場合は、早急な対策が必要です。例えば、屋根がダメージを受けた場合、強い雨風などを受けると損傷が拡大する恐れがあります。ブルーシートで覆うなどして対応しましょう。台風や強風で窓ガラスなどが割れた場合も、板などで応急処置します。
ただし、高所での作業など、危険が伴う場合は業者に依頼するのが賢明です。火災保険では、被害拡大防止の応急処置にかかる費用も補償されます。
3.保険会社に損害があることを伝える
契約している保険会社に損害の状況を伝えましょう。被害の状況や原因、損害の程度を詳しく伝えます。保険証券番号を聞かれるため、あらかじめ用意しておきましょう。
保険会社には、損害発生日から30日以内に伝えるのが望ましいとされています。損傷箇所を長く放置していると、被害が拡大する恐れがあるからです。30日以上たったからといって、保険金が支払われなくなることはありません。ただし、報告が遅れたために損傷箇所の劣化が進んだ場合、保険金が減額される可能性もあります。
4.修繕の依頼をする業者を選ぶ
建物の修繕工事を依頼する業者を選びましょう。複数から見積もりを取った上で、信頼できる業者を選ぶことが大切です。
予算は重要ですが、安さを重視し過ぎると後悔するかもしれません。実績も併せて確認し、バランスが良いと思える業者を選びましょう。
なお、台風や大雨などの自然災害の場合、同一エリア内で工事の依頼が殺到する傾向があります。良い業者の取り合いになるかもしれないため、修繕依頼は早めに動くことが大切です。
5.修繕見積書を作成してもらう
保険会社に損害の報告をすると、必要に応じて調査会社や損害鑑定人が現場にやって来ます。調査・鑑定を経て、損害額の算出を終えたら、修繕見積書を作成してもらいましょう。
ただし、広域大規模災害の場合、全ての物件を調べるのは困難なことから、現場調査は省略されることもあります。こうしたケースでは、詳細な被害レポートを提出するのが一般的です。きちんとした修繕見積書と併せて提出すれば、保険金を受け取れます。
6.保険金請求書を郵送する
保険会社から保険金請求書が郵送されてきます。届いたら、氏名・住所・保険金受取口座情報などを記入し、速やかに返送しましょう。同時に、事故内容報告書・損害明細書・建物登記簿謄本などの書類提出が求められるのが一般的です。
なお、事故現場の写真や修理見積書などは、メールで送ることをおすすめします。郵送で送るよりも早く調査会社・損害鑑定人の元に届くからです。
7.建築業者に修繕工事の依頼をする
保険金の給付額が決定したら、建築業者に修繕工事を依頼しましょう。自然災害の場合は周囲の建物も被害を受けているため、業者への依頼が殺到している可能性があります。やることが多くて忙しいかもしれませんが、修繕工事を発注できるのは基本的に物件の所有者だけです。できるだけ早めに依頼しましょう。
修理業者への支払いは一括払いが基本ですが、着工前に請求してくる業者は要注意です。トラブルの匂いを察知したら業者を変えるか、最寄りの消費生活センターなどに相談してみましょう。
まとめ
不動産投資をする上で、火災保険は必須といえる保険です。自然災害や日常災害による損害を補償してくれ、特約を追加すれば補償を手厚くできます。ただし、手厚くすればするほど保険料が増すため、コストと補償内容のバランスは見極めましょう。契約前に免責事項を確認することも大切です。
不幸にも保険金を請求することになったら、手順に沿って早めに対応します。大規模災害の場合は、保険会社をはじめ地域一帯が慌ただしくなっているかもしれません。大切な投資物件の復旧を早めるためにも、スピーディーに行動することが大切です。