不動産投資を始めるなら、税金を学ぶことが大切です。将来のために貯蓄を増やす目的でマンションやアパートなどを購入して資産運用に活用したいが、税金のしくみがわからず不安だという方もいるのではないでしょうか。
不動産で得た利益には税金がかかります。税金について理解していなければ、知らないうちに脱税をしていた、などのトラブルにつながることも考えられます。税金のルールだけでなく、確定申告や節税の方法も事前に理解しておくことが大切です。
そこでこの記事では、税金の種類、確定申告方法、必要経費などのしくみについてご紹介します。不動産投資に関係する税金の全体像をイメージして、投資活動に活かしましょう。
もくじ
不動産投資にかかる税金と税率
不動産投資にかかる税金の種類には所得税と住民税があります。それぞれ独自の税率であるため、覚えておきましょう。
投資に興味があるが、税金のしくみがよくわからないという方のために、ここでは所得税や住民税のルールを紹介します。不動産投資に重要な2つの税の基本的な定義を押さえておきましょう。
所得税
◯ 税率
所得税率は、収入である所得金額が大きいほど金額が増えていく累進課税式で計算します。以下に所得金額別の税率と控除額の表を示します。控除額は、国税庁が税率の差分を計りつつ設定したものです。
所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超〜330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超〜695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超〜900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超〜4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
所得は給料や投資利益から必要経費を差し引いた手取りです。不動産投資だけでなく仕事の給料を表す給与所得など、1年間の全体的な手取りを意味します。そこに税率を合わせる総合課税方式を取り入れています。対象時期は申告年度の1月〜12月です。
不動産投資結果がマイナスなら、ほかの所得の合計からマイナス分が引かれ、申告が必要な税金も結果的に安くなります。
◯ シミュレーション
所得税の計算は「課税所得金額×税率」から控除額を引いて算出します。
たとえばある方の給与所得が600万円、不動産所得が200万円であるとします。その場合、総合課税制度につき800万円として税金計算します。695万円超〜900万円以下の所得にあてはまり、税率は23%、控除額は63万6,000円です。
800万円×23%=184万円
184万円-63万6,000円=120万4,000円
上記の計算式から、所得税は120万4,000円となります。
一方で、給与所得が600万円であり、不動産投資の結果がマイナスで、所得が-100万円であるとします。この場合は、500万円の総合所得として税金を計算します。500万円なら税率は20%、控除額は42万7,500円です。
500万円×20%=100万円
100万円-42万7,500円=57万2,500円
上記の結果から、所得税は57万2,500円となります。
住民税
◯ 税率
住民税は一律10%が基本です。しかし地域によっては独自のルールにより差異が生じることがあります。
税率にもとづいた計算は納税者本人ではなく、居住している市区町村側が行います。納税者が確定申告書を税務署に出すと、内容が役場に送られて計算された住民税額が納税者に伝わります。このデータは所得税確定申告書の一部に示されています。
住民税の場合でも、不動産所得は給与などにプラスして計算します。所得税同様、対象年度の不動産投資の結果がマイナスならその分が所得から引かれ、そこに住民税が計算されます。
対象時期は所得税と違い、前年の所得をベースに計算し、申告年度の6月〜翌年5月までの住民税を決定します。
◯ シミュレーション
住民税は一律10%となっているため、所得合計にかけ算をします。たとえば、給与所得が600万円で不動産所得が100万円であるとします。合計所得は700万円です。
700万円×10%=70万円
上記のケースでは、70万円の住民税を納める義務が生じます。
一方で給与所得が600万円でも、不動産所得がマイナス100万円であるとします。この場合は、総合課税制度により500万円に住民税をかけます。
500万円×10%=50万円
上記の計算から、住民税は50万円と算出されます。
住民税の10%はあくまでも相場で、神奈川県の10.025%、名古屋市の9.7%などのように異なる地域もあります。自身の居住している地域の住民税率を事前に確かめておきましょう。
不動産投資で得た所得を確定申告するには
不動産所得の確定申告には複数の書類が必要です。手続きの不備がないように、必要書類や提出時期などを押さえておきましょう。
ここでは、確定申告のために必要な書類を紹介し、書類の受け取り方や税務署への提出時期なども解説していきます。
必要書類をそろえる
不動産所得を得た年度では、確定申告の際に以下の書類が必要になります。
・不動産売買契約書
・借入金の返済予定表(ローンを組んだ場合)
・固定資産税通知書
・賃貸契約書
・各種保険証券
・修繕見積もり・請求・領収書
・外注で不動産管理をしている場合は、管理会社からの賃料入金明細書
・必要経費の領収書
さまざまな種類が必要になるため、事前にチェックしておくことが大切です。ひとつでも不備がある場合は、確定申告の書類を受理してもらえません。
確定申告に限らずあらゆる手続きをスムーズに行うため、書類の管理は大切です。不動産投資関連の書類は専用のファイルにまとめておくと、確認がしやすく便利です。
取引の準備段階から大切な書類を扱うこともあるため、なくしてしまわないように自身がわかりやすい場所に保管しておきましょう。
申告書に記入
確定申告書にはAとBの2種類があり、不動産所得がある場合はBに記入します。法人として税務署に開業届を提出している場合は、毎年1月に確定申告書Bが自宅に届きます。この申告書には2つの表があります。
確定申告書Bの第一表にはおもに収入、所得およびそこから差し引かれる控除額、税金などを記入します。所得は給与と不動産投資分などを別々に記します。保険や配偶者、医療費などの控除額も忘れずに記載しましょう。
所得は、給与や不動産などの各収入から必要経費を引いたものです。最終的な納税額は源泉徴収分を差し引いてから決まります。
第二表では、おもに所得の内訳や控除額の詳細情報などを記していきます。
申告書を税務署に提出する
確定申告書が完成したら、必要書類とともに税務署へ提出しましょう。確定申告は、毎年2月16日から3月15日までに提出しなければなりません。期限に遅れないように、スケジュールを調整しましょう。
確定申告を期限までに行わない場合は、「期限後申告」となり最高20%の無申告加算税や延滞税が加わることがあります。余分な出費をしないためにも、かならず期限内に提出しましょう。
不動産投資で経費に計上できるもの
不動産所得からは、必要経費として差し引けるものが複数あります。経費を正しく計算すれば、節税にも効果的です。
ここでは、不動産の維持・管理にかかる経費の具体的な項目を説明します。不動産投資に関係する必要経費の全体像を把握しましょう。
管理費
管理に関連する費用は必要経費として所得から差し引くことができます。おもに建物内の部屋や廊下、階段などの清掃や備品などのメンテナンスにかかる費用が挙げられます。
マンションやアパートへの入居者などによい物件であることを印象づけることは、退去を防ぎ安定した家賃収入にもつながります。物件のきれいな見た目は、評価を高めるポイントにもなります。
また、オフィスや部屋を利用していた方が退去したあとに、掃除や修繕を行うことも管理のうちにはいります。 管理費は、不動産に必要な投資であるといえます。
修繕費
確定申告では不動産の修繕費も必要経費にできます。マンションやアパート、オフィスなどの部屋や備品のうち壊れた部分を直したり、新品に交換したりすることも維持や管理に必要であるためです。
壊れたものが放置されている建物よりも、常に使えるものやきれいなものがそろった建物のほうが好印象を受けやすいでしょう。修繕をないがしろにすると悪い評判がたつなど投資活動に支障をきたすかもしれません。
不動産投資では、必要な修繕をしっかりと行うなど利用者への配慮も重要です。
損害保険料
損害保険料も、必要経費として計上できます。建物には地震や火災などの災害で大きなダメージを負うリスクがあります。損壊すれば、不動産価値にも大きな影響を与えたり、建物が利用できなくなったりする可能性もあります。
そのため、火災や地震、施設賠償の保険に入ることは不動産保持にとって必要なものといえます。
複数年で保険を契約していて2年分以上を一括で支払った場合は、1年あたりの金額を経費とします。
管理会社に支払うお金
管理会社へ不動産の管理を任せた場合は、委託料が発生します。確定申告ではこれも必要経費とすることが可能です。
不動産の購入後も、常にきれいにしておくなどの配慮が大切です。所有者が忙しいなどの理由から管理に時間が取れず、管理会社に維持やメンテナンスなどを任せるケースも多く見られます。そのような場合に支払った委託料は、必要経費として計上できます。
減価償却費
必要経費には減価償却費も該当します。これは時期経過に応じた建物の劣化に合わせて、購入時の価値から減った分を意味します。
木造や鉄筋など素材により耐用年数が違い、それを踏まえて建物を利用できる期間が決まっています。使用可能期間をベースに毎年一定額を不動産価値から差し引くしくみです。価値のマイナス分を必要経費として不動産所得から引きます。
ローンの金利部分
不動産投資は多額の資金が必要になる場合も多く、ローンを組む方もいるでしょう。その金利部分も必要経費になります。
不動産投資目的で金融機関からお金を借りた場合、金利の支払い義務も生じます。金利も不動産所有権の維持や資産運用には欠かせないものと考えられ、必要経費とされています。
その他の費用
これまでに挙げた6つ以外でも必要経費として計上できるものがあります。たとえば、自宅から不動産の状況をチェックするための移動にかかる交通費や、公共交通機関やレンタカーなどの費用も経費として計上できます。
ほかにも、不動産に関することで管理会社と連絡をとることもあります。その場合に発生する通信費や、関係者との打ち合わせなどで生じる交際費も必要経費として認められる場合があります。
不動産投資にあたり、専門家に助けてもらうこともあるかもしれません。税理士事務所へ確定申告の相談をしたり、司法書士に不動産登記を頼んだりする費用も、経費として計上できます。
不動産投資にはさまざまな出費が生じますが、それらの多くが確定申告では必要経費として計上できます。そのため、支払いがあれば忘れずに記録をつけておくようにしましょう。
不動産投資は節税対策になる?
不動産に投資をすることで、節税効果は期待できるのでしょうか。実際に不動産投資に参入すれば、相続税や所得税の負担が減る場合があります。不動産投資を考えているが、節税との関係性がわからないという方もいるのではないでしょうか。
ここでは、相続税や所得税などから不動産投資の節税効果を検証します。不動産と節税の関係性を把握し、投資活動に役立てましょう。
相続税は現金より優遇される
現金よりも不動産として所持しておくほうが、相続税を安く抑えられます。おもな理由として、建物は相続税としての評価額を下げられるからです。
購入した建物には固定資産税評価額がつきますが、これが相続税評価と同じ数字になります。固定資産税評価額の相場は、購入代金の50%〜60%です。建物と同じ額の現金を相続するよりも、建物のまま相続したほうが余分な税金を支払わずに済みます。
投資対象の不動産がマンションやアパートなどで、すでに利用者がいる場合は借家権が生じて相続税評価額をさらにダウンできます。
所得税の節税は赤字が前提
不動産投資の結果、所得税が思ったよりも安く済んだ経験をした方もいるかもしれません。多くの場合、それは投資結果が確定申告上マイナスであったからです。申告上黒字となっている場合は、所得税の節税は期待できないと考えましょう。
確定申告の対象である年度において、所得は給与や不動産投資などあらゆる要素をひとつにまとめます。その金額へ税率をかけて正式な納税額が決まります。これを総合課税と呼びます。
総合課税の性質上、不動産投資の結果が申告上マイナスの場合は、損をした分をほかの所得から差し引いて税金計算を行います。そのため、最終的な所得額が低くなり税率も合わせてダウンするため、所得税が安くなることがあります。
住民税も安くなる
住民税は10%を相場として地域により異なりますが、こちらも不動産投資の結果次第で安くなることがあります。所得税と同じく住民税も総合課税方式を取り入れているからです。
不動産投資結果が申告上マイナスなら、給与などほかの所得から損失分を差し引いて住民税を計算します。そのため、申告上マイナスの結果に合わせて住民税の額が安くなります。
たとえば給与所得だけで500万円あった場合は、10%の住民税で50万円かかります。しかしこれに50万円の不動産投資におけるマイナスが加われば、最終的な所得は450万円になり、住民税は45万円となります。
所得税と計算方式が似ていることもあり、投資が成功していて黒字の場合は住民税の節約は見込めませんが、申告上マイナスの結果であれば安くなるケースもあります。
まとめ
不動産投資には税金がつきものです。家賃収入や売却などの利益から所得税や住民税が算出されることを覚えておきましょう。
所得税や住民税は、仕事の給与などほかの所得とあわせて算出する総合課税方式です。この性質上、不動産投資の結果が申告上マイナスであれば、その分が所得から差し引かれ納税額が安くなるケースもあります。
投資目的で不動産を購入すると維持や管理などにも資金が必要ですが、それらの多くは確定申告時に必要経費として計上できることも理解しておきましょう。税金は、不動産投資でもさまざまな場面で関係しています。