現在の貯蓄を活用し、将来的な資産形成につなげる方法のひとつとして「不動産投資」が知られています。会社員から個人事業主まで有益な投資活動ですが、「個人事業主は実践しにくい」と考える方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、個人事業主が不動産投資に挑戦するメリットについて詳しく解説します。注意点も押さえておくことで、より実践的な知識が得られるでしょう。後半では、不動産収入が大きくなった場合の法人化に関する情報もご紹介します。
もくじ
個人事業主が不動産投資を始める5つのメリット
不動産投資によって得られるメリットは、本業の形態によってさまざまです。個人事業主の場合、節税対策が魅力的な要素といえます。本業の収入が不安定な時期でも、副収入があれば充実した生活を維持しやすくなるでしょう。個人事業主の方と不動産投資の関係性や、投資活動におけるメリットを5つご紹介します。
不動産投資の費用を経費として計上できる
不動産投資では各種費用を経費として計上できます。物件を購入したり管理したり、以下のような費用は経費として取り扱われ、節税効果が期待できるでしょう。
- 固定資産税・都市計画税など
- ローン返済時の金利(不動産の価格は除く)
- 火災保険料・地震保険料
- 管理費
- 修繕費
- 修繕積立金
- 減価償却費
- 広告宣伝費
- 司法書士や税理士への報酬
青色申告控除を受けられる
個人事業主の方は、1年間で得た所得を計算して確定申告の手続きを行います。このとき用いるのは、「青色申告書」または「白色申告書」といわれる書類です。青色申告の場合、10万円または65万円の青色申告特別控除が適用されます。固定資産税などの経費に加えて最大65万円が差し引かれるため、総所得を100万円以上減らせることもあります。
また、青色申告には次のようなメリットもあります。
- 家族に支払った給与を経費に計上できる
- 回収不能となった家賃などを経費に計上できる
- 取り壊しなど、損失が発生したとき3年間繰り越しが可能
経費にできる項目が多くなる
不動産投資を始めると投資に関わる費用も計上できるようになります。黒字を減らすことにより節税効果が得られるでしょう。
例えば不動産投資会社と打ち合わせを行うとき、往復の交通費や食事代といった費用も経費に該当します。投資活動のために用いた書籍や、参加したセミナーの利用料金も計上が可能です。このように、経費にできる項目が増える点は個人事業主が実感しやすいメリットといえます。
本業以外にも安定した収入を得られる
収入が安定しにくい個人事業主は、金銭的な負担を感じる方もいるかもしれません。月や年によって変動が激しくなると、生活を困窮させるリスクも高まるでしょう。不動産投資では入居者から家賃を得られるため、「家賃収入」によって収入の安定化を図れます。
家賃収入にも変動はあるものの、対策を練ることで十分にリスクヘッジが可能です。数十年にわたって収入が続くため、「本業のみでは物足りない」と感じている方にも魅力的といえます。
本業への負担がかかりにくい
不動産投資におけるメリットは、「管理に手間がかかりにくい」という点です。部屋数の多いマンションやアパートを経営する場合、衛生管理や環境の維持に不安を感じるかもしれません。管理会社と契約することで、このような懸念を解決できます。
物件の管理会社に支払う費用は、税金などと同様経費のひとつです。毎日物件を見たり掃除したりといった作業を続ける必要がないため、本業に与える影響は少ないと考えて良いでしょう。
個人事業主が不動産投資を始める際の3つの注意点
不動産投資を始めるにあたって、事前に把握しておきたい注意点があります。事業的規模の仕組みもチェックしながら、お金に関するリスクヘッジへつなげましょう。3つの項目に分けて、投資活動前に押さえておきたいポイントをご紹介します。
融資を受けにくくなる
会社に勤めている方に比べ、デメリットに感じやすいのが融資の受けにくさです。大金が必要となる不動産投資では、十数年~数十年のローンを組むケースも多く見られます。このとき金融機関などは以下のような項目を基準に融資を決める点を理解しておきましょう。
- 自己資金
- 勤務先と勤続年数
- クレジットカードなどの個人信用情報
- 他の借入金があるかどうか
- 年収
- 物件の担保評価
年収が高いほど、不動産にかかる融資も受けやすくなります。変動しやすい個人事業主の場合、収入の不安定さを理由にローンが組めなくなるかもしれません。
急に費用がかかるリスクがある
長期間不動産を所有していると、雨風にさらされることで劣化も進みます。丁寧なメンテナンスを続けることも重要ですが、リフォームや修繕で一時的に出費を増す可能性も考慮しておきましょう。
予測しにくいのは、地震や台風といった災害です。生活が困難なほど建物が崩壊した場合、修繕できないと家賃収入も途絶えます。火災保険などの適用で負担は軽減されますが、修繕用の貯蓄も重要なリスクヘッジです。
事業的規模を満たしている必要がある
特別控除などの青色申告によるメリットを得るためには、不動産所得が事業的規模と認められる必要があります。国税庁は不動産の貸し付けが事業として行われているかの判定基準として、以下の2点を挙げています。
- 集合住宅の場合は10室以上
- 独立家屋の場合は5棟以上
ただし、アパートと貸家が混在する場合や賃料が大きい場合などでも事業的規模と認められるケースもあります。投資先を決める前に税務署に相談してみましょう。
不動産投資のために個人事業主として開業する方法
今後個人事業主としての活動を予定している方は、適切な時期に手続きができるよう開業届の提出方法を押さえておきましょう。原則、開業日から1か月以内に税務署へ提出する必要があります。主な記入項目と内容は以下です。
- タイトル:「開業」にチェックを入れる
- 提出日:書類の提出日
- 納税地:個人事業主の住所
- 税務署:納税地管轄の税務署
- 氏 名:個人事業主の本名
- 個人番号:マイナンバー
- 屋 号:個人事業主の屋号(なければ省略可)
個人事業主が金融機関から融資を受けやすくなるコツ
収入面で不安を抱えている方は、融資を受けやすくなるポイントを把握しておきましょう。現在の資産を証明するだけでなく、信用情報に傷をつけない心がけも大切です。不安定な収入が続く場合は、保証人を立てて信頼性を向上させるのも有益な方法といえるでしょう。審査に通りやすくなるコツを3つご紹介します。
金融資産を資料として残しておく
融資を受けるために有効なのは、「現在の資産を明確にする」作業です。預貯金の金額や、金融資産の内容をまとめた資料を用意しておきましょう。預貯金は通帳のコピー、金融資産は取引内容の分かる書類がおすすめです。
また、不動産投資に関する事業計画書を提出するのも良い手段です。綿密なシミュレーションを行い、現実的な資金繰りを書面化すると良いでしょう。融資が高額でも、実現性が認められれば契約も期待できます。
ローンやクレジットカードの返済はきちんと行う
他のローンを契約している方は、返済が滞らないよう注意しましょう。クレジットカードや公共料金の支払いも同様です。支払いが期日を超えた場合、信用情報機関に遅延の記録が残ります。全ての情報が融資に影響するわけではありませんが、複数回の滞納が見られる場合はローンを組めない可能性が高まると考えましょう。
携帯電話の本体を分割で支払っている方や、社会保険料などの支払いを自動引き落としに設定していない方は注意が必要です。
保証人を立てる
返済能力が十分に認められない場合、金融機関から保証人を求められるケースもあります。不動産投資に費やせる資金が少ない方は、家族や親戚など保証人に立てられる方を決めておいた方が良いでしょう。
重要なポイントは、「保証人の収入状況もチェックされる」点です。契約者本人が信頼できる方でも、収入によっては融資を断られるかもしれません。
個人事業主として不動産投資を行う際の節税の方法
不動産投資では、特別控除をはじめさまざまな方法で節税効果を高められます。事業的規模に該当する場合のメリットを活用し、少しでも節約できるよう対策を練っておきましょう。特別控除・専従者給与2つの項目に分けて、特徴や仕組みを詳しく解説します。
65万円の特別控除を適用させる
不動産投資を行う上で実行しやすいのが、特別控除の適用です。不動産投資が事業的規模だと認められると青色申告ができ、65万円の特別控除を受けられます。収入を問わず適用されるため、節税対策として効果を実感できるでしょう。
青色申告は複式帳簿での記載が必要です。不安な場合は、不動産投資のプロや税理士に相談するのもおすすめです。
専従者給与を活用する
家族を従業員として雇っている場合、専業者給与の制度を活用できることがあります。以下3つの条件を満たす者に対して支払った給与を経費として計上できる仕組みです。
- 青色申告者と生計を共にしている
- その年の12月31日時点で15歳以上
- 年間に6か月以上、青色申告者の事業に従事している
制度を活用するためには「青色専従者給与に関する届出書」を原則3月15日までに提出する必要があります。
不動産投資で個人事業主が法人化するのに適したタイミング
不動産収入に対して課税される「所得税」は、個人事業主・法人によって税率が異なります。法人税の方が大幅に軽減できるため、「法人化した方がお得」と考える方もいるでしょう。法人へ変更するタイミングとしては、900万円以上の所得がひとつの目安といわれています。
個人の所得税率が法人税(23.2%)よりも高くなるタイミングが900万円です。900万円を超えると33%になります。年間の所得が900万円を超えていない状況であれば、個人事業主のまま進めた方が有益といえるでしょう。
また、初めての不動産投資で法人化を決断するのは賢明といえません。法人を確立した直後に融資を依頼すると、事業実績の観点から断られるリスクが高いためです。高額な収入を期待できる物件でも、まずは個人事業主からスタートした方が良いでしょう。
法人化をして不動産投資を行うメリットとデメリット
法人として不動産投資を続けると、個人事業主とは異なるメリットが得られます。一方、デメリットが伴う点にも注意が必要です。時間的な負担が増える可能性もあるため、適切なタイミングで法人化できるようメリットとデメリットを理解しておきましょう。節税や手続きなど、魅力的な要素と注意点について解説します。
節税の面でより有利になるメリットがある
投資した不動産を相続する予定がある方は、法人化するとメリットを得られるでしょう。個人では相続税が発生しますが、法人が所有する不動産は相続税・贈与税の対象に含まれないためです。将来的に有益な要素ともいえます。
また、損失が発生した場合は9年間の繰り越しが可能です。個人事業主は3年が上限となっているため、より長い期間節税効果を実感できるでしょう。
手続きや会計が複雑なのがデメリットとなる
個人事業主とは異なる魅力があるものの、法人化のためにコストがかかる点は認識しておきましょう。設立の手続きも複雑なため、時間と労力がかかります。赤字でも法人住民税が発生することも覚えておきましょう。
確定申告の際は、個人事業主に比べて費用項目が複雑になります。税理士などに依頼すると適切に進めやすくなります。専門家と契約した場合は、不動産関係の費用として計上可能です。
個人事業主と法人の4つの違いは?
現在個人事業主として活動している方や、法人としての不動産投資を検討している方は具体的な相違点を把握しておくと安心です。メリットに思える要素が多い方を実践できるよう、複数の観点から特徴を押さえておきましょう。ここからは、個人事業主と法人を比較したとき、不動産投資関係で異なるポイントを4つご紹介します。
融資条件が異なる
融資の際に収入の属性がチェックされる個人事業主に対し、法人で重要となるのはこれまでの実績です。これに加えて、物件の担保評価も重要な要素となります。
法人化した直後のタイミングや、負債が多い法人は融資を受けられない可能性も高まると考えた方が良いでしょう。実績が豊富であれば、不動産投資の経験に関わらず認められるケースもあります。
保険料の控除額が異なる
控除の観点で異なるのは、保険料に関する規定です。経費として取り扱えるかどうかだけでなく、控除額の上限にも違いがあります。
個人事業主が保険会社と契約した場合、確定申告の際に最大12万円の控除が適用されます。保険料が高額なほど有益といえますが、12万円以上の控除は受けられません。一方、法人の保険は上限なく控除制度を活用できます。保険の種類によっては大金になるケースもあるため、税金対策にも有利な要素といえるでしょう。
損失繰越の期間が異なる
不動産の修繕などで損失が発生した場合、翌年に繰り越すことで1年後の所得から減額できます。個人事業主は3年、法人は9年が繰越期間の上限です。事業に関わる金額が大きいため、法人の方が長い期間設けられていると考えられます。9年後まで繰り越せる環境が整うと、万が一の事態でも極端な損失を回避しやすくなります。
減価償却の方法が異なる
確定申告を行う際、購入した不動産の費用を「減価償却」のルールに従って計上します。あらかじめ定められた計算式を用いて算出する会計方法です。個人事業主と法人ではルールが異なり、法人では事実上「任意償却」が認められています。
減価償却費を上限とし、0円から金額を決められる償却方法です。個人事業主は収入状況を問わず計上する必要があるため、法人の方が節税を目的に調整しやすいといえます。
まとめ
不動産投資は資産形成の他、税金面でも多数のメリットを得られます。融資の難易度やコストの増大など、注意点も理解した上で実践に進みましょう。