青色申告はそれほど難しいものではありません。基本的な仕組みと必要な情報を理解しておけば、難しく捉えがちな確定申告も問題なくおこなえます。
青色申告は、納税金額を抑えられる点が大きなメリットです。
今回は青色申告の概要と、確定申告までの流れを詳しく解説します。白色申告よりも手間のかかる書類作成への対処法も紹介しているので、青色申告に慣れていない方はぜひ参考にしてください。
もくじ
青色申告の基本情報
青色申告は確定申告をおこなう方法の1つです。青色申告をするためには、事前申請が必要で、帳簿の保存や記載も指定どおりにおこなわなければなりません。
青色申告の対象は、「事業」「不動産」「山林」のいずれかに関する所得のある方です。管轄の税務署に、青色申告をおこなう年度の3月15日までに申請書を提出します。年度内に開業した場合は、開業後2ヶ月以内となっています。
青色申告の大きな特徴は、帳簿への記載方法や保存方法が厳格に決められている点です。また、確定申告時に提出する書類も、白色申告と比較して多くなっています。日々の取り引きを確実に記録して、正確な納税をおこなうことが青色申告の趣旨です。
青色申告をするメリット
青色申告では帳簿の厳格な管理が求められる代わりに、税制上多くのメリットを得られます。いずれのメリットも節税に直結するため、しっかりと確認しておきましょう。
青色申告のおもなメリットを3点ご紹介します。一定の事業規模以上であれば大きな節税効果につながるので、現在白色申告をしている方は検討してみてくださいね。
最大65万円の特別控除を受けられる
青色申告のもっとも魅力的なメリットが、最大で65万円にもなる特別控除です。特別控除を受けることで課税所得額が減るので、納税金額を抑えられます。ただし、特別控除の金額は、条件によって異なる点に注意が必要です。
青色申告特別控除の控除額には、10万円、55万円、65万円の3種類があります。10万円控除は簡易簿記の記帳で申告できますが、55万円か65万円の控除を受けたい場合は複式簿記への記帳が必要です。さらに、65万円の控除を受けるためには、e-Taxを使って申告するか、電子帳簿の保存が条件となります。
赤字の3年間繰り越しができる
青色申告では、赤字を最長3年間繰り越すことが可能です。赤字となった部分を翌年の所得から差し引けるため、短期的に利益が出た年の納税額を減らせます。
赤字の繰り越しは、とくに事業を始めた年度に経費が膨らんで赤字となった際に有効です。開業翌年に黒字化したとしても、実際には開業資金を回収できていないこともあります。しかし、損失を繰り越せると、事業のために使用した経費を適切に計上できます。
家族への給与を全額経費にできる
青色申告では家族への給与を全額経費に算入できるため、節税につながります。納税者の家族が事業に従事したことで受け取る給与を「青色事業専従者給与」といいます。
ただし、青色事業専従者給与と認められるには、従事する人の年齢や従事している期間、適切な労働対価であるかなど、いくつかの条件がある点には注意しましょう。また「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出も必要です。
30万円未満の資産を一括で減価償却できる
青色申告には「少額減価償却」という特例があり、30万円未満の資産であれば一括で減価償却ができます。
本来、10万円以上の資産は耐用年数に従って償却する必要があるため、一括での経費計上はできません。たとえば、20万円のパソコンを購入しても耐用年数が5年であれば、実際には代金を一括で支払っていても、年間4万円までしか経費として認められないことになっています。
青色申告の少額減価償却の特例を利用すると、耐用年数以内の好きなタイミングで償却することが可能です。利益の大きかった年度に一括償却すれば、課税所得額を圧縮できるでしょう。なお、少額減価償却資産の限度額は、年間の取得価額の合計300万円までです。
青色申告をするための事前準備
青色申告をするには、事前の準備が必要です。とくに初めての青色申告では、申請手続きや書類の用意など多くの手間がかかるため、計画的に申告の準備をしておきましょう。
手続きが煩雑で一見難しく思えますが、1つずつ丁寧にこなしていけばそれほど難しくありません。青色申告に必要な手続きや書類について詳しくご紹介します。
青色申告承認申請書と開業届を作成する
青色申告をおこなうには、「所得税の青色申告承認申請書」の提出が必要です。また、開業間もない場合や届け出を忘れていた場合は、「個人事業の開業・廃業等開業届書」も必要となります。
「所得税の青色申告承認申請書」は、青色申告を開始したい年度の3月15日が提出期限です。年度中に開業した場合は、開業届の2ヶ月以内が期限となりますが、いずれにせよ期限内に確実に提出しておきましょう。
申告に必要な書類をあつめる
青色申告は白色申告に比べて必要な書類が多くなります。まずは、提出書類に記載するための、「収入」「経費」「控除」に関する証拠書類を準備しましょう。
準備した書類をもとに帳簿を作成し、確定申告書類に記入していきます。提出が必要な書類は、「確定申告書B」と「青色申告決算書」の2種類です。また、特別控除を受けるためには、貸借対照表と損益計算書の添付が必要です。さらに控除する内容に応じて、医療費の領収書や社会保険料などの控除関係書類、生命保険料の控除関係書類、地震保険料の控除関係書類、寄付金の控除関係書類、住宅借入金の控除関係書類などを添付します。
帳簿記載のもととなる、領収書や源泉徴収票の提出は不要ですが、7年間の保管義務があるため注意しましょう。税務調査などで提出を求められることもあります。
申告方法を決める
青色申告には窓口、郵送、e-Taxの3種類の申告方法が用意されています。どの方法で提出しても問題ありませんが、最大の65万円の控除を受けるには、e-Taxでの申告または電子帳簿の保管が条件です。
政府が利用をすすめていることもあり、特段の理由がなければe-Taxでの申告が手軽でおすすめです。ただし、e-Taxを利用する際は事前に申請が必要な点に注意しましょう。
e-Taxの場合は動作環境を確認する
e-Taxの動作環境にはいくつか条件があります。「申告作業を始めようとしたら、対応できないパソコンだった」とならないよう、動作環境を事前に確認しておきましょう。
また、e-Taxでの青色申告にはマイナンバーカードも必要です。マイナンバーカードの発行にはおおむね1~2ヶ月かかるので、余裕をもって取得しておきましょう。
青色申告の書類作成が難しいときの対処法
青色申告をするためには、ある程度簿記の知識が必要です。また、書類の収集や帳簿への記載など、作業自体のボリュームも無視できません。とくに、初めての青色申告を1人でおこなう場合は戸惑う場面もあるでしょう。
そこで、青色申告の書類作成が難しい場合の対処法を3つご紹介します。青色申告初心者の方はもちろん、もっと楽に申告作業をしたい方もぜひ参考にしてください。
会計ソフトを使う
会計ソフトを利用すれば、専門知識の必要な複式簿記による帳簿作成も簡単です。専門の高価な会計ソフトではなくても、クラウド上で安価に利用できるサービスも増えています。クラウドサービスであれば、青色申告に対応しているものでも月額1,000円台から利用可能です。
会計ソフトを使うメリットは申告作業そのものに加え、日々の帳簿記入が楽になることです。紙の領収書を撮影すれば、自動的に経費計上してくれるソフトもあります。また、銀行口座やクレジットカード情報も連携できるので記帳の手間がかかりません。
税務署の記帳指導を利用する
確定申告の時期になると、記帳や仕訳の方法がわからない方に向けて、税務署が無料の記帳指導や相談会を開催します。初めて青色申告をする方は、参加しておくと申告の流れや準備する書類が明確になるので安心です。
開催日や場所は税務署によって異なるため、管轄の税務省に問い合わせてみてください。また、青色申告の申請を済ませていると、相談会の案内が郵送で届くこともあります。
税理士に頼む
まったく手間をかけずに青色申告をしたい方は、プロである税理士に依頼しましょう。税理士に依頼すれば、経費の計上判断も正確におこなってもらえます。
また、税理士が作成した確定申告は信頼度が高いため、税務調査の対象になりにくいメリットもあります。
ただし、税理士に依頼すると、高額な報酬が発生することがある点には注意が必要です。予算や業務範囲を、あらかじめしっかりと打ち合わせしておきましょう。
【まとめ】青色申告をして特別控除を受けよう
青色申告にはある程度の知識が必要で手間もかかる反面、条件を満たせば大きな特別控除を受けられる点がメリットです。また、家族への給与を控除できたり、赤字を繰り越せたりと、さまざまな税制上の優遇もあります。
節税は脱税とは異なるため、決して悪いことではありません。収支のこまめな記録によって正確に納税することは、むしろ社会にとってもいいことです。
従来は複雑だった書類作成も、便利な会計ソフトとe-Taxによって負担は少なくなりました。これから開業する方や、自営業の方でまだ青色申告にしていない方は、ぜひ1度検討してみてください。