「一般承継人」と「特定承継人」は、土地や建物といった不動産を相続、売買する際に理解しておくべき言葉です。取得する際の立場で決まり、権利の引き継ぎ方が変わります。一般承継人と特定承継人では手続き方法や負うべき義務の範囲が異なるため、意味や内容を把握しておくことが大切です。
そこで今回は、一般承継人と特定承継人の違いについて、それぞれが適用されるケースも含めて詳しく解説します。
もくじ
承継人とは権利を引き継ぐ人
「承継人(しょうけいにん)」とは、親族や第三者から権利や財産、権利などを引き継ぐ人のことです。また、権利をもともと持っている側の人は「被承継人(ひしょうけいにん)」といいます。親から土地や建物といった財産を相続する子供、事業を引き継ぐ後継者などが代表的な承継人です。
さらに、権利の引き継ぎ内容によって、一般承継人と特定承継人の2種類に分けられます。それぞれの違いについて、不動産を承継する事例で詳しくみていきましょう。
相続などは一般承継人
一般承継人は「包括承継人」と呼ばれ、包括的に権利とそれに伴う義務の一切を引き継ぐ人のことです。一般承継人はすべてをまとめて引き継ぐ必要があるため、権利の一部を取得するといった取捨選択はできません。
一般承継人になる代表的な場面は、親をはじめとした親族が死亡した際の相続です。例えば、親がローンの残っている土地と建物、現金を残していたとします。現金のみを相続したいところですが、財産の相続では一般承継人となるため、現金のみを受け取ることはできません。ローンのある土地と建物も含めてすべてを相続するか、相続放棄をするかを選択する必要があります。
売買で権利を引き継ぐ人は特定承継人
特定承継人とは、他人から特定の物や権利のみを個別に引き継ぐ人のことです。「特定」という言葉から特別なケースを想像しがちですが、売買や贈与、交換といった一般的な取引で譲渡される権利の多くが該当します。
例えば、中古住宅を購入する際、土地は借地のままで建物のみを購入するといったことも、売主の合意さえあれば可能です。特定承継人は、売買をはじめとする取引の対象となる権利のみを引き継ぎます。
一般承継人と特定承継人は権利と義務の範囲が違う
権利の引き継ぎ方が異なる一般承継人と特定承継人では、当然承継する権利の範囲も変わってきます。また、権利と一体の義務についても、範囲が異なる点に注意が必要です。
一般承継人と特定承継人が引き継ぐ権利と義務の範囲について詳しく紹介します。
一般承継人の権利と義務の範囲
一般継承人は、負の遺産や負債などの消極的財産を含めたすべての権利や財産を承継します。被承継人に借金がある場合は、代わりに返済する義務を負わなければいけません。また、承継する権利を放棄したい場合は、資産も含めてすべてを包括して放棄することになります。
ただし、被承継人のみがもつ権利である「一身専属権」は継承できません。具体的には、以下のような権利です。
- 代理権
- 使用貸借における借主の地位(賃借権は相続可能)
- 雇用契約上の地位
- 組合員の地位
- 配偶者所有権
- 配偶者短期居住権
- 扶養請求権
- 著作者人格権
- 身元保証人としての立場
- 生活保護者受給権
- 免許や資格
特定承継人の権利と義務の範囲
特定承継人の権利と義務は、承継時に特定した範囲のみです。被承継人が有している、他の権利や義務とは無関係に承継できます。被承継人に債務があった場合でも、特定承継人は返済する必要がありません。
ただし、区分マンションについては、特定承継人でも例外的な定めがあります。例外とは、修繕積立金や管理費の滞納についてです。被承継人が管理費を滞納していたとしても特定承継人に債務は引き継がれないため、本来であれば支払う義務はありません。しかし、修繕積立金や管理費が支払われないと、マンションの維持に支障をきたしてしまいます。そこで、区分マンションについては、例外的に特定承継した場合でも支払いの義務があると法律で定められているのです。
承継の適用はケースによって異なる
一般承継人と特定承継人は、承継人が自由に選べるわけではありません。どちらが適用されるかは、権利を引き継ぐケースによって定められています。
一般承継と特定承継が適用されるケースを、それぞれ詳しくみていきましょう。
相続や企業合併は一般承継
一般承継のもっとも身近な事例は、親や親族が亡くなった場合の相続です。亡くなった人が被承継人(被相続人)、相続する人は一般承継人(相続人)となります。相続する際には、土地や建物、現金といった財産だけではなく、ローンの残債や各種料金の未払い分など負債も同時に引き継がれる点に注意しましょう。
また、企業が合併する際も、一般承継になるケースです。許認可や労働契約、商標権といった無形の財産や権利も、承継人に包括して引き継がれます。
土地の売買や事業譲渡は特定承継
土地などの財産の売買や贈与、交換によって権利を取得する場合は、引き継がれる範囲が限られる特定承継です。例えば、ローンが残っている不動産が公売や競売にかけられても、購入した人にローンの支払い義務は発生しません。特定承継では、売買契約書などに明記された部分の権利のみが引き継がれます。
また、法人や個人が事業譲渡する際も、特定承継に該当します。事業そのものや商標、従業員との契約、債務を個別に引き継ぐことになるため、不採算事業などを承継の対象から外すことが可能です。一方で、個別に引き継ぐにあたっては、それぞれに承継内容を決める必要があるため、手続きが煩雑になります。
【まとめ】一般承継人と特定承継人の違いによって手続きも異なる
相続でも売買でも不動産を取得する際は、一般承継人か特定承継人に該当します。一般承継人となる相続では包括的に権利と義務を引き継ぐことになるため、相続内容のマイナス部分も十分に考慮して判断することが重要です。
一方、売買や贈与といった形で特定承継人に該当する取引であっても、区分マンションを取得する際には負債を引き継がざるを得ないケースもあります。マンションの維持に欠かせない、修繕積立金や管理費に滞納があるケースです。特定承継人でも支払う必要があるため、購入価格を減額してもらうなど、被承継人と打ち合わせて納得のいく形で引き継ぎましょう。