ホームインスペクションとは、専門家による住宅の診断です。住宅の劣化や不具合の状況について調査をおこない、欠陥の有無や補修すべき箇所を客観的に診断します。住宅を売買する際に売主と買主双方の不安を解消し、安心して取引を進めるための重要な手段です。
一方で、専門家による検査の内容がわからないことから、費用に関して不安に感じている方も少なくありません。そこで本記事では、ホームインスペクションの費用や具体的な内容、効果についてわかりやすく解説します。
もくじ
住宅の売買で重要性の高まるホームインスペクション
住宅の売買でホームインスペクションの重要性が高まっている理由は、物件の安全性と修繕や補修などの必要性を把握できるためです。主管官庁である国土交通省は、住宅市場の健全化と消費者保護を図るため、ホームインスペクションの活用を促進しています。
まずは、ホームインスペクションの具体的な内容をみていきましょう。
ホームインスペクションとは住宅診断
ホームインスペクションとは、新築住宅の施工状況や中古住宅の劣化状態などを客観的に診断することです。建物の構造・外装・内装・設備などを詳細にチェックし、物件の潜在的な問題や将来的な修繕の必要性といった診断結果を報告書にまとめます。
住宅には見えない欠陥が潜んでいることもあるため、売主の言葉だけでは安心して取引できません。また、見かけの問題から、買主側が不当な値引きを要求するケースもあるため、客観的な評価を得ておくことは売主にとっても重要です。
診断は専門家によっておこなわれる
ホームインスペクションで住宅を診断するのは、国の登録を受けた機関が開催する講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)や住宅建築の専門家です。診断者は建築や構造に関する豊富な知識と経験をもち、目に見えない部分の問題も見逃さずに診断します。
診断の項目は多岐にわたり、診断者たちはその項目に基づいて各部分を徹底的に調査します。診断は中立的な立場でおこなわれるため、売主や買主の利益に左右されません。住宅の問題点や改善点は、客観的な診断結果として報告書にまとめられて調査依頼者に提供されます。
検査は2段階にわかれている
ホームインスペクションは、一次検査と二次検査の2段階にわかれています。
一次検査の主要目的は、目視と計測機器による建物の外観や構造上の確認です。安全性のチェックや雨漏り、ゆがみの有無などの項目が含まれています。国土交通省が促進しており、基本検査とも呼ばれます。
二次検査は、特定の問題が疑われ、さらに詳しい情報が必要なときにおこなわれる検査です。壁や天井の内部など、目視では確認できない部分がおもな検査対象です。内部の状態を詳しく調べるために、必要に応じて一部を破壊することもあります。
ホームインスペクションの費用は物件や条件によって異なる
ホームインスペクションの費用は、診断する物件や条件によって異なります。戸建てやマンション、使用される建築資材や間取りの違いによって手間や難易度が変わってくるためです。
一戸建てとマンションの検査内容の違いから、意外な検査方法まで詳しくご紹介します。
一戸建ての費用は検査内容によって幅がある
一戸建ては、広さや間取り、建築の仕様と希望する検査の内容によって費用が異なります。一次検査の費用は、6万円以上が相場です。
また、詳細な調査を行う二次検査を実施する場合は、追加費用が必要となります。一戸建てでホームインスペクションを実施する際は、事前にしっかりと打ち合わせをして費用を確認しておきましょう。
マンションの場合は検査内容が限定的
マンションのホームインスペクションの費用は、標準的な70平方メートル程度の間取りで5万円程度が目安です。マンションでは、一戸建てのように壁や床の内部を詳細に検査できません。検査内容が限定的なため、一戸建てに比べると費用が明確です。
ただし、極端に広い面積や特殊な構造の物件では、追加費用が発生する場合もあります。また、新築でも中古でも検査内容が同様のため、費用はほとんど変わりません。
内覧会に同行してもらって検査もできる
内覧会に専門家を同行させて、その場で住宅診断をおこなうサービスを提供しているインスペクション会社もあります。内覧会でホームインスペクションを実施すれば、効率良く住宅の購入判断が可能です。
費用は物件の種類や検査内容、同行先の場所によって異なります。一戸建ては5万〜12万円、マンションは4万〜6万円が相場です。
ホームインスペクションの効果
ホームインスペクションは、見方を変えるとただ住宅の診断をするだけで、実際になにかを改善するわけではありません。しかし、国土交通省が促進し、多くの人から注目を集めているのは明確なメリットがあるためです。
ホームインスペクションの効果について、改めて詳しくみていきましょう。
物件の状況が明らかになる
ホームインスペクションの最大の効果は、不具合のある箇所や修理の要否が明らかになることです。特に、2020年4月から契約不適合責任が始まり、売主の責任が大きくなっています。悪意なく把握していなかった不具合でも、改善する責任を売主が負うことになりました。
責任を負わないためには、契約書にすべての不具合を記載しておくことが重要です。ホームインスペクションで物件の状態を正確に把握しておくことで、不具合を見逃すリスクを低減できます。
瑕疵担保保険に加入できる
瑕疵担保保険に加入できる点は、ホームインスペクションを実施する大きなメリットです。瑕疵(かし)とは、建物の欠陥や不具合のことで、物件の引き渡し後でも一定の条件下で売主は責任を免れません。しかし、瑕疵担保保険に加入していれば修理費用が保険でカバーされるため、売主のリスクが大幅に低減されます。
瑕疵担保保険の加入条件として、多くのサービスでホームインスペクションの実施が義務付けられています。保険会社は、できるだけ保険金支払いのリスクを減らしたいためです。ホームインスペクションにも保険加入にも費用はかかりますが、万が一の大きな出費に備えられます。
購入前に安心できる
ホームインスペクションの報告書を確認することによって、買主は物件を安心して購入できます。不動産の知識があまりなくても物件の状態を確認できるのは、買主にとって大きなメリットです。また、報告書に不具合があった場合でも、売主と修繕や補修の交渉ができます。
一方で、売主によるホームインスペクションにも、買主を安心させることで売りやすくなるメリットがあります。お互いに物件の正しい状態を把握していれば、健全な売買交渉ができるでしょう。
ホームインスペクションの検査内容と時間
ホームインスペクションの検査項目は、物件の内外が対象で多岐にわたります。日常生活を送りながら検査を依頼することも少なくないため、検査にかかる時間を見積もっておくことが大切です。
ホームインスペクションの検査項目や方法、所要時間についてみていきましょう。
検査項目は大きく5項目
ホームインスペクションには多くの検査項目がありますが、大きくわけると以下の5項目です。報告書は、それぞれの項目に基づいて作成されます。
外回り
基礎・外壁・屋根・バルコニー・シャッターなど
室内
壁・床・天井・建具など
床下
土台・束(屋根や床を支える短い柱)・コンクリート基礎など
小屋裏・天井裏
小屋組み・断熱材・金物など
設備
給排水設備・換気設備など
目視や器具を使って検査
ホームインスペクションでは、目視と専門的な計測器具を使用して検査がおこなわれます。国土交通省が「既存住宅インスペクション・ガイドライン」として発表している検査方法は、以下のとおりです。
“目視を中心としつつ、一般的に普及している計測機器を使用した計測や触診・ 打診等による確認、作動確認等の非破壊(注)による検査を実施する。
(注)非破壊:材料の寸法・形状に変化を与えない”
目視検査では、外壁のひび割れや屋根の損傷、室内のカビや劣化などを確認します。また、簡単には見えない床下・天井裏・配管なども目視検査の対象です。専用のカメラや湿度計、シロアリ検知器などの器具を使って検査がおこなわれます。
所要時間は1〜2時間前後
ホームインスペクションの所要時間は、一般的に1〜2時間前後です。ただし、検査内容や物件の状態によって変動します。
家の状態をすべて確認することから、大がかりで時間のかかる検査を想像しがちですが、プロによって検査手順が確立されているため意外に時間はかかりません。
【まとめ】ホームインスペクションは不動産購入で失敗しないために重要
不動産の不具合は簡単に見つからず、引渡し後にトラブルが生じるケースも少なくありません。安心して不動産売買を進めるためには、ホームインスペクションを有効に活用することが重要です。物件の状況を正確に把握しておけば、売主と買主の双方が安心して取引できます。
ホームインスペクションにかかる費用や時間は、それほど負担になるものではありません。不動産の売買を予定している方は、ぜひホームインスペクションの実施を検討してみてください。