病気やケガなどの治療にかかった医療費は、確定申告をすると控除を受けられます。また、医療費控除の対象は、病院で支払った費用だけではありません。市販薬を購入した場合にも一定の条件を満たせば控除を受けられるため、積極的に活用したい制度です。
サラリーマンや公務員といった給与所得者でも、もちろん医療費控除の制度は利用できます。ただし、年末調整での申請はできないため、別途確定申告が必要です。
そこで今回は、医療費控除の仕組みや確定申告の仕方を、必要書類まで含めてわかりやすく解説します。不要な税金を払わなくて済むよう、ぜひ参考にしてください。
もくじ
医療費控除とは?
医療費控除とは、支払った医療費を年間の所得額から減額できる制度です。課税所得額が減れば、所得税や住民税がそれだけ少なくなります。ただし、控除には一定の条件があり、医療費のすべてが対象ではありません。
そこで、医療費控除の基本的な仕組みや、適用条件について詳しく解説します。
医療費控除の基本的な仕組み
医療費控除は、課税期間1年間に支払った医療費が一定の金額を超えた場合に、同期間の所得額から減額する制度です。また、平成29年には、ドラッグストアなどで特定の市販薬を購入した場合、一定の条件下で特別控除の対象とするセルフメディケーション税制もスタートしました。ただし、医療費控除との併用はできません。
条件を満たした費用を所得から控除できるため、課税所得額が減って所得税と住民税を圧縮できます。給与所得者の所得税は事前に源泉徴収されているため、医療費控除、もしくはセルフメディケーション税制によって減額された税金が還付される仕組みです。
医療費控除が適用される要件
医療費控除もセルフメディケーション税制も、支払ったすべての費用が対象となるわけではありません。控除の適用には、一定の要件が定められています。
まず、控除を適用できる対象期間について確認しましょう。確定申告の対象期間と同期間に支払われた費用のみが、医療費控除の対象として認められます。また、納税者自身、もしくは生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った費用のみが対象です。
さらに、医療費控除とセルフメディケーション税制には金額面での条件もあります。医療費控除は、年間の医療費が10万円または所得の5%のどちらか安いほうを超えた部分が控除対象です。つまり、年間所得が200万円未満の場合は、5%を超えた部分が控除対象となります。また、控除額の上限は年間200万円となっている点にも注意しましょう。
一方、セルフメディケーション税制では年間8万8千円を上限に、1万2千円を超える部分が対象です。さらに、セルフメディケーション税制の特別控除を受けるには、人間ドックや予防接種など健康を維持するための一定の取り組みを行う必要があります。
医療費控除の対象
医療費控除には、対象となる費用にも条件が定められています。控除対象となる費用の例は以下のとおりです。
- 医療または歯科医師による診療・治療の対価
- 治療・療養のために必要な医薬品の購入費
- 通院費(電車代、バス代、緊急時のタクシー代など)
- 入院中の食事代
- 松葉づえ、義歯などの購入費
- 人間ドック(検診で重大疾病が発見されて治療した場合)
- 出産費用
一方、以下は医療費控除の対象にはなりません。
- 健康診断の費用
- 医師に対する謝礼金
- ビタミン剤などの病気の予防や健康増進のために用いられる医薬品の購入代金
- 未払医療費・前年に支出した医療費
- 美容整形費
- 個室利用時の差額ベッド料金
- 人間ドック(異常がない場合)
医療費控除の対象について詳しくは、税務署もしくは国税庁のホームページで確認してください。
医療費控除の申請方法
医療費控除を適用するには、正しい手順で決まりに沿って申請する必要があります。給与所得者にとっては馴染みのない確定申告も含まれるため、医療費控除を受ける際には内容を事前にしっかりと把握しておきましょう。
医療費控除の申請方法について、初めて申請する方にもわかりやすく解説します。
医療費控除を受けるには確定申告が必要
確定申告を行わないと、医療費控除は受けられません。また、生命保険料などの各種控除を年末調整で申告できる給与所得者も、医療費控除に関しては確定申告が必要です。対象年の翌年2月16日から3月15日までと申告期間が定められているため、遅れないように手続きをしましょう。
確定申告をする際は、パソコンやスマートフォンから手続きできるe-Taxが便利です。これまで確定申告をした経験がない方は、申告方法を事前に調べておきましょう。また、不明な点は、管轄の税務署に相談することもできます。
医療費控除の対象かを確認
支払った医療費の全額が控除対象となるわけではありません。一方で、受診時のタクシー代など、医療機関に直接支払っていない費用でも対象となる場合があります。申請する費用が医療費控除の対象であるかを、漏れなくていねいに確認しましょう。
金額を計算して医療費控除の明細書に記入
医療費控除を受けられるのは、1年間に支払った医療費が一定の金額を超えた場合です。まずは、対象項目の合計金額を計算して、控除対象となるかどうかを計算しましょう。また、計算の結果、控除を受けられる場合は、医療費控除の申請に必要な「医療被告所の明細書」にも記載します。
具体的な計算方法は以下のとおりです。
= 1年間に支払った医療費の合計 - 保険金などの補てん金 - 10万円もしくは所得の5%のいずれか低い金額
なお、保険金などの補てん金は、還付された高額療養費や出産一時金、医療保険から支給される入院給付金などです。ただし、医療費の支払いに直接使われない出産手当や傷病手当、また所得補償保険などは補てん金にはあたりません。
それでは、以下の条件で医療費控除額を算出してみましょう。
【入院して30万円を支払った場合】
所得金額:400万円
支払った医療費:30万円
入院給付金:5万円
医療費控除額: 15万円= 30万円- 5万円- 10万円
なお、支払った医療費が15万円だった場合は以下のとおりとなり、医療費控除は受けられません。
医療費控除額: 0万円= 15万円- 5万円- 10万円
医療費控除の明細書を確定申告書とともに税務署に提出
医療費控除の申請は、確定申告によって行います。作成した医療費控除の明細書を、確定申告書とともに税務署へ提出しましょう。給与所得者などで源泉徴収されている場合は、1〜1.5カ月程度で還付金が申告時に指定した口座に振り込まれます。
なお、税務署への提出方法は、かつては窓口や郵送のみでしたが、現在はe-Taxという仕組みを利用してオンラインでの提出も可能です。確定申告時期の税務署は混雑するため、e-Taxの利用をおすすめします。
医療費控除を申請するために必要な書類
医療費控除を受けるには、複数の書類を準備する必要があります。また、給与所得者であっても、確定申告をしないと医療費控除は受けられません。
医療費控除の申請に必要な書類を具体的にみていきましょう。
医療費控除の明細書
医療費控除を申請する際は、指定項目が記載された「医療費控除の明細書」の提出が必要です。書式は厚生労働省や自治体のホームページからダウンロードできます。
医療費控除の明細書には、患者氏名、支払い先、医療費の区分、医療費、生命保険などで補てんされる費用を詳しく記載します。明細部分の金額をもとに、控除額を計算して記入する項目もあるため、慎重に漏れなく記入しましょう。ただし、後述する「医療費通知」を添付する場合は、記載されている分の明細の記入は不要です。
確定申告書
確定申告書は、医療費控除を受けるために必要な確定申告をする際に提出する書類です。納税者の情報のほか、所得や控除の情報を漏れなく記入する必要があります。e-Taxを利用すれば、書類自体の入手は不要です。窓口や郵送で申告する場合は、最寄りの税務署で申告書類一式を入手できます。
初めて確定申告をする場合は、書類作成に時間がかかるかもしれません。スケジュールに余裕をもって作成することをおすすめします。
また、給与所得者であれば、年末調整で漏れていた控除項目を申告することも可能です。せっかく確定申告するのであれば、医療費控除以外の項目も再度確認してみましょう。
医療費通知
医療費通知は、加入する健康保険機関から発行される、診療や医薬品の提供に関する情報を通知する書類です。医療機関の名称や患者の氏名・生年月日、診療内容や薬剤名や処方箋内容、そして診療日などが記載されています。
医療費通知があれば、医療費控除の明細書の明細部分に記入する必要はありません。ただし、医療費通知がなくても、明細書に正確な情報を記入さえすれば医療費控除は受けられます。
本人確認書類
確定申告をする際には、個人番号(マイナンバー)と身元を証明できる書類が原則必要です。マイナンバーカードを取得していれば、1つで両方を証明できます。
マイナンバーカードを取得していない場合は、番号確認書類と身元確認書類がそれぞれ必要です。通知カードのほか、番号が記載された住民票の写しや住民票記載事項証明書が番号確認書類として使用できます。身元確認書類は、運転免許証・公的医療保険の被保険者証・パスポート・身体障害者手帳・ 在留カード・税務署から送付される「確定申告のお知らせ」はがきなどです。
例外的に認められる書類もあるため、どうしても上記の書類を用意できない場合は税務署に確認してください。
【まとめ】医療費控除は所得税や住民税の負担を減らせる制度
医療費控除の恩恵は、所得税の減額だけではありません。所得割のある住民税も、医療費控除によって圧縮できます。ただし、すべての医療費が控除対象とはならないうえ、さまざまな条件が定められている点には注意が必要です。対象項目や控除額の計算式、上限金額などを確認しておきましょう。
また、医療費控除を申請するには、サラリーマンや公務員といった給与所得者でも確定申告が必要です。期限内に正しく申請できるよう、事前にしっかりと準備しておくことをおすすめします。