サラリーマンや公務員といった給与所得者は、確定申告をする必要はありません。しかし、還付金という制度によって政府からお金が返ってくる可能性があるため、確定申告をしないことで損をしているかもしれません。また、還付金を受け取れる可能性があるのは、自営業者も同様です。
そこで今回は、どのような場合にお金が返ってくるのか、金額はいくらでいつごろ受け取れるのかなど、還付金について詳しくご紹介します。
もくじ
納めた税金が還付金として返ってくる
「還付」という言葉のとおり、還付金はすでに納めたお金、つまり税金が日本政府から返ってくることです。
なぜ税金が返ってくるのか、還付金の仕組みや受け取るための条件について詳しくみていきましょう。
還付金とは
還付金は、本来の税額に対して税金を納め過ぎた場合に発生します。還付金が発生する税金のほとんどは所得税です。
給与所得者は、実際の所得金額が確定する前に、源泉徴収という形で毎月の給与から所得税が差し引かれています。しかし、源泉徴収は定率で計算されるうえ、住宅ローンや生命保険といった控除額も反映されていません。そのため、源泉徴収額よりも実際の税額のほうが安くなるケースがほとんどです。
また、確定申告によって税額を確定させて所得税を納税する自営業者の場合でも、条件によっては還付金を受け取れる可能性があります。取引先に源泉徴収されている場合や、予定納税を行っている場合です。各種控除を適用して年間の課税所得が確定した際、すでに支払った金額よりも税額が低ければ差額が還付金として返ってきます。
還付金を受け取るための条件
還付金を受け取るためには、税金を払い過ぎていることを政府(税務署)に知らせる必要があります。給与所得者の場合は年末調整、それ以外の方は確定申告が主な手段です。
また、利用する控除制度や状況によっては、給与所得者も確定申告をしなければ還付金を受け取れない場合があります。特に控除制度については、国税庁のホームページで逐一確認しましょう。新たな制度の施行や、特別控除など期限付きの税制もあるためです。
還付金を受け取れる時期
還付金の受け取りまでにかかる期間は、確定申告書の提出からおおむね1〜1.5カ月です。確定申告の期間は毎年2月16日から3月15日のため、内容に問題がなければ3月中旬から4月中に指定した口座へ還付金が振り込まれます。
確定申告で還付金が発生する主なケース
納税者それぞれの事情や状況、利用する控除制度によって還付金が発生するケースは異なります。給与所得者の場合は、年末調整で還付金を受け取るため、確定申告によって発生する還付金を意識していない方も多いでしょう。
そこで、確定申告によって還付金を受け取れる、5つのケースについて詳しくご紹介します。
所得税額が源泉徴収額や予定納税額を下回っている
源泉徴収や予定納税によって納めた税金よりも、実際の所得税額が少ない場合に確定申告で還付金を受け取れます。ただし、年末調整で申告できる範囲しか控除のない給与所得者の場合、確定申告は必要ありません。
源泉徴収とは、給与や報酬を支払う側が、所得税分を差し引き、支払いを受ける本人に代わって税務署に納税する制度です。給与所得者はもちろん、自営業者でも取引内容によっては源泉徴収されます。
予定納税とは、前年分の所得税が15万円を超えている場合に、当年の税額の一部を前払いで納税する制度です。ただし、自営業者や副業をしている人など、確定申告で納税額を確定する人のみが対象となります。サラリーマンや公務員で、給与所得しかない場合は予定納税の対象ではありません。
どちらも、最終的な納税額が確定する前に所得税を支払うため、実際の税額よりも多く納めていた場合に還付金を受け取れます。
年末調整で所得控除の申告をしていない
多くの給与所得者は年末調整で所得税額を確定させて還付金を受け取るため、確定申告は不要です。しかし、年末調整で正しく所得控除を申告していない場合、確定申告をしないと還付金を受け取れません。年末調整の書類提出を忘れていた、項目に漏れがあった場合には確定申告をおすすめします。
特に、近年利用者が増加している、ふるさと納税をした場合には注意が必要です。ふるさと納税ではワンストップ特例を利用すれば確定申告は不要ですが、書類の提出に期限があります。書類を提出できない方は、必ず確定申告をしましょう。
退職後に再就職していない
退職後に再就職していない方は、多くの場合で還付金が発生します。給与所得の源泉徴収は1カ月分の給与ごとに差し引かれることから、退職後に無収入であれば支払い過ぎになっている可能性が高いためです。
退職後には年末調整がなく、確定申告をしない限り還付金は受け取れません。すでに源泉徴収されているため義務はありませんが、還付金を受け取るためにも確定申告をおすすめします。
確定申告でしか適用されない控除がある
年末調整がある給与所得者でも、すべての控除制度を利用できるわけではありません。確定申告をしなければ適用できない主な控除は、雑損控除、医療費控除、寄附金控除の3つです。ただし、寄付金控除のうち、ふるさと納税の場合は確定申告が不要なワンストップ特例を利用できます。
また、給与所得者でも条件を満たせば経費を控除できる特定支出控除も、確定申告をしなければ適用されません。特定支出控除は、給与所得者に認められた特定の項目にかかった費用の合計額が、給与所得控除額の2分の1を超えるときに利用できます。対象となる主な費用は、通勤費・職務上の旅費・転居費・研修費・資格取得費などです。
なお、原則年末調整で申告できる住宅ローン控除ですが、1年目は確定申告が必要である点にも注意しましょう。
損失の繰り戻し請求をする
繰り戻し請求とは、事業が赤字となった場合に、前年度に納めた所得税に対して還付請求できる制度です。事業所得を得ている自営業者などのうち、青色申告をしている人が利用できます。
事業所得は、給与所得のように安定しているわけではありません。そこで、事業をできるだけ継続できるよう、赤字の年に一定の年月までさかのぼって所得税の還付を受けられるようになっています。ただし、還付されるのは所得税のみで、住民税は返ってきません。
確定申告で返ってくる金額の計算方法
所得が一定額を超える事業や副業をしている場合は、還付金の有無に関わらず確定申告が必要です。一方で、一般的な給与所得者の場合は、確定申告の義務は原則ありません。確定申告には手間がかかるため、返ってくる金額によって申告をするかどうか決めたい方もいるでしょう。
そこで、確定申告をして受け取れる還付金の計算方法を、具体的な計算例とともにご紹介します。
納付済みの所得税額との差額が還付される
確定申告で返ってくる還付金は、源泉徴収などにより前払いした所得税と実際の税額の差額です。還付金の計算をするためには、所得税の算出方法を理解して本来の税額を把握しておく必要があります。
所得税の計算式は以下のとおりです。
「所得税額=課税所得金額(所得金額-所得控除)×所得税率-税額控除+復興特別所得税(課税所得✕2.1%)」
※復興特別所得税は2037年まで課税予定です。
※所得税率については、国税庁のページでご確認ください。
還付金の具体的な計算例
基本的な計算方法さえ理解していれば、還付される金額を簡単に算出できます。実際に以下の条件で還付金の計算をしてみましょう。
その他所得控除:15万円
源泉徴収額:70万円
所得税率:20%
税額控除:42.75万円
まずは、本来納税すべき所得税額を算出します。
所得税額(復興特別所得税を含む)=((500万円− 15万円)✕ 20%− 42.75万円)+(500万円− 15万円)✕ 2.1%
以上の計算式から、所得税額は64.435万円です。(644,350円)
源泉徴収額は70万円のため、還付金は5.565万円(70万円− 64.435万円)です。(55,650円)
還付金を受け取るための注意点
せっかくお金が返ってくるのですから、還付金はスムーズに受け取りたいものです。しかし、正しく申告していないと、いつまでも還付金が入金されないこともあります。
そこで、還付金を間違いなく受け取るための注意点をみていきましょう。
還付申告には期限がある
還付金の申告には期限が定められています。期限を過ぎてしまうと、申告内容が正しくても還付金を受け取れなくなるため注意しましょう。
還付申告の期限は、対象となる年の翌年1月1日から5年間です。つまり、還付申告は5年前までしかさかのぼれません。ただし、毎年2月16日から3月15日と申請期間が短い確定申告と違って、還付申告は年間を通じていつでも申請できます。
受取口座は銀行口座か郵便貯金を正確に記載
還付金を受け取るには、受取口座の記入が必要です。受取口座が正しく記載されていないと、還付金の受け取りまでに時間がかかってしまいます。
銀行口座や郵便貯金口座の番号は単なる数字の羅列であるため、もっとも間違えやすいポイントです。また、利用する金融機関によっては、支店名が似通っていることもあります。提出前には、正確な口座情報が記載されている通帳などと見比べて、しっかりと確認してください。
さらに、インターネット銀行の一部では、そもそも還付金を受け取れません。不安な場合は書類を記入する前に、管轄の税務署に問い合わせましょう。
還付金が入金されない場合
還付金は、通常1〜1.5カ月程度で入金されます。還付金が入金されないまま、申請から長期間経過した場合は、一度税務署に問い合わせてみましょう。
還付金が入金されない理由はさまざまです。たとえば、申告内容が認められなかった場合や、書類に記載された情報に不備があった場合は入金されないおそれがあります。状況によっては、申告書の再提出や補足書類の提出を求められるケースもあります。スムーズに還付金を受け取るためには、正確な申告書類を作成することが重要です。
【まとめ】確定申告をして返ってくるお金を確実に受け取る
還付金が発生する条件が整っていても、申告しない限りお金は返ってきません。特に、普段確定申告をしない給与所得者は、還付金の有無をしっかりと確認することが大切です。
納税は国民の義務ですが、払わなくていいお金まで納める必要はありません。還付金を受け取ることは、納税者に認められた権利です。正しい申告をして、還付金を確実に受け取ってください。