不動産投資は、長期運用によって安定した収入が得られるだけでなく、相続税対策の手段としても活用できることをご存知でしょうか。2015年1月には、相続税法の改正により基礎控除額が引き下げられ、不動産投資の節税メリットにさらに注目が集まっています。
とはいえ、相続税対策の仕組みや注意点を理解していないと、のちに大きなトラブルにつながりかねません。そこで今回は、不動産投資によって相続税を節税できる理由や注意点について解説します。正しい知識をつけることで、相続税対策を視野に入れた長期的な不動産投資を行いましょう。
もくじ
不動産投資で相続税対策ができる3つの理由
不動産投資が相続税対策に有益な理由を理解するには、まずは相続税の仕組みを把握する必要があります。相続税は、相続財産を遺して亡くなった被相続人の相続税評価額が基礎控除額を超えた場合に支払うものとされ、2015年1月には相続税法の改正にともない、基礎控除額が「3,000万円+600万円×法定相続人数」に引き下げられました。
相続税評価額は、被相続人が残した財産の価値を金額によって評価が決まりますが、現金を不動産に変えて相続することで財産としての評価額が下がり、相続税が安価になるという仕組みです。
相続税の計算上で不動産の評価が下がるため
では、なぜ現金ではなく不動産を相続することによって相続税が
節税できるのでしょうか。その理由は、不動産の評価方法にあります。現金や預金を相続する場合とは異なり、不動産の土地は「路線価」で評価されますが、路線価は時価の8割程度です。
建物は固定資産税評価額によって評価されますが、これは時価の6割程度とされています。また、賃貸用の場合はさらに評価が下がり、3割の引き下げが可能です。
つまり、1億円の土地に1億円の賃貸用物件を建てて相続する場合、土地の評価額は「1億円×0.8=8,000万円」、建物は「1億円×0.6×0.7=4,200万円」となります。2億円の現金を相続する場合と比べると評価額が約半分となることから、相続税の節税につながるという仕組みです。
小規模宅地等の特例を利用できるため
さらに、不動産の相続には「小規模宅地等の特例」を適用することができます。小規模宅地等の特例とは、被相続人の所有する土地を対象に、一定面積までの部分について相続税の課税価額額が控除できる制度です。居住用だけでなく事業用の宅地にも適用され、貸付事業用宅地等に該当する場合は200平方メートルまでが50%減額されます。
ただし、貸付事業用宅地として特例が適用されるにはいくつかの要件があるため注意が必要です。被相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、さらにその申告期限まで宅地を所有して貸付事業が行われていなければ、貸付事業用宅地等に該当しません。
なお、限度面積や減額される割合は法改正によって随時変更されるため、相続税の課税価格の計算は常に最新の情報をもとに行いましょう。
相続後の家族の生活を守れるため
相続税の節税そのものにつながるわけではありませんが、不動産という現物資産を相続することは、残された家族の収入源を確保する上でも有益です。毎月の家賃収入によるインカムゲインはもちろん、必要な際には物件を売却することにより、まとまった金額を得ることも可能でしょう。
相続税の納税は、残された家族に金銭的な負担をかけることとなります。相続税の節税対策だけでなく、残された家族の生活が守れるというのは不動産投資の大きな魅力です。家族の将来を安定させるためにも、長期的な資産価値・入居者ニーズが期待できる物件選びを徹底し、相続時と相続後のメリットを最大限に発揮させることが重要です。
不動産投資による相続税対策が必要とされる理由
前述のとおり、2015年1月の法改正にともない、相続税の基礎控除額が縮小されました。2014年12月31日までの基礎控除額が「5000万円+1,000万円×法定相続人の数」であったのに対し、2015年以降は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となり、それまでは納税対象に当てはまらなかった方にも納税の義務が発生することとなったのです。
実際に、改正後の2015年以降、相続税が課税された人の割合は前年の約2倍まで増加しました。こうした背景により、「相続税を少しでも減らしたい」と考える人が増えたため、相続税対策としての不動産投資ニーズが年々高まっているのです。
生前贈与による相続税対策はできるのか
財産の生前贈与には相続税でなく贈与税が課税されますが、基礎控除額の範囲内であれば非課税にすることが可能です。ただし、すべてのケースで生前贈与が節税につながるわけではありません。特に、不動産投資においては所得税が課税されるといった注意点もあります。
生前贈与によって相続税対策が行えるのか、贈与税や制度をしっかりと確認しましょう。
税率は相続税よりも贈与税のほうが高い
表1は、20歳以上の子どもや孫などに不動産を生前贈与した場合にかかる贈与税率です。税率だけを比べると、贈与税のほうが相続税率(表2)よりも高いことがわかります。ただし、贈与税の基礎控除額が110万円に限られており、生前贈与の税率構造は相続税とは異なる点に注意が必要です。
表1 贈与税率(20歳以上の子どもや孫への贈与)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
表2 相続税率
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続時精算課税制度が活用できる
一般的に、不動産の生前贈与は歴年贈与の範囲である110万円を超えてしまうため、贈与税の納税が必要となります。しかし、「相続時精算課税制度」を活用することで、財産価額の合計学から2,500万円までを特別控除することが可能です。つまり、贈与する財産の合計学が2,500万円以下であった場合は、贈与税がかかりません。
さらに、この制度を利用すると財産の合計価額が2,500万円を超えた場合も、特別控除後の金額にかかる税率は一律20%のみとされています。ただし、相続を開始すると同時に、生前贈与した不動産は相続税の計算に含まれるため要注意です。
たとえば、2,000万円の物件を贈与する場合、相続税精算課税制度を利用すれば贈与税はかかりません。しかし、贈与者が死亡した際には2,000万円も加えた合計価額によって、相続税を算出します。
贈与による不動産取得では不動産取得税と登録免許税の負担が大きい
贈与によって不動産を取得すると、有償・無償にかかわらず、土地・住宅建物それぞれに課税されるのが「不動産取得税」です。投資用不動産の場合、固定資産税評価額に対して税率4%が課税されます。相続時精算課税制度を利用した場合も同様です。一方で、相続による不動産取得には不動産取得税がかかりません。
また、贈与・相続によって不動産を取得したいずれの場合も不動産登記が必要です。それぞれにかかる「登録免許税」の税率は異なり、相続の場合は固定資産税評価額の0.4%で済むのに対し、贈与の場合は2%と高く設定されています。不動産取得税・登録免許税の負担を加味すると、相続よりも贈与のほうが全体の税額が高くなる傾向があるといえるでしょう。
不動産投資で相続税対策をする際の注意点
不動産投資によって相続税対策を行うには、将来的に予想されるあらゆる不動産投資特有のリスクを理解し、準備を重ねる必要があります。さらに、節税に関する注意点・ポイントをおさえていないと、税務署との大きなトラブルに発展する可能性もゼロではありません。
不動産投資のリスクや節税について正しい知識を身につけることで、将来に向けて長期的な不動産投資を行いましょう。
不動産投資特有のリスクを理解しておく
相続税対策として不動産投資を活用するには、不動産投資において予想されるあらゆるリスクを理解して、適切に運用しておくことが大切です。
入居者からのニーズが落ち込むことで空室が増えてしまう空室リスク、入居者の家賃滞納による家賃滞納リスク、さらには不動産投資ローンの返済中に金利変動が起こることによるランニングコスト変動リスクまで、不動産投資オーナーを待ち受けるリスクはさまざまです。
相続税対策の効果を最大限に発揮させるためには、こうしたリスク一つひとつに備えておかなければなりません。
不動産投資の安定収入を得るのが本来の用途である
一般的に、不動産投資はあくまでも長期的に安定した収入を得ることが目的とされています。相続税対策だけを目的とすると本末転倒となり、結果的に運用自体がうまく回らなくなる恐れもあるため注意が必要です。
将来的な収益力・稼働力が期待できる物件を選ぶだけでなく、良い管理会社選びや日頃から付き合いのある金融機関との関係構築など、運用・経営に力を入れましょう。相続税対策のためだからと利益を追求せず、不動産オーナーとしての業務を怠ってしまうのは危険です。
税務署に否認される場合がある
最近では、相続税の節税に執着するあまりに不動産投資で過度な行動をとり、税務署から否認される場合も少なくありません。2019年には、相続によりマンションを取得後、路線価による評価額を申告するも国税当局に認められず、相続人に対して合計約3億円の追徴課税処分を行なったケースもあります。
前述のとおり、不動産投資はあくまでも長期的な運用を目的として、安定した収入を得るためことを前提に行うものです。過度な節税対策によって利益を得るのではなく、不動産投資全体をうまく回すことにより長期的な収益を生み出しましょう。
相続の際に揉める可能性がある
相続人が複数人いた場合、現金・預金とは異なり、不動産を等分に分けることは容易ではありません。持分で相続しようとすると、持分の比率で揉める可能性があるだけでなく、相続後も売却にあたって意見が割れるなど、重要な意思決定にも支障が出ます。
さらに、子ども・孫へと引き継がれるたびに共有持分をもつ人数が増えていくと、管理はますます大変になるでしょう。不動産を相続する際は、家族内のトラブルを招くことのないようにしっかりと対策を検討しましょう。
相続税対策の不動産選びならプロの不動産会社へご相談を!
不動産投資は相続税対策の手段としても有益とされ、相続時の節税だけでなく、相続後の家族の生活を守る意味でもおすすめです。一方で、こうしたメリットを得るには、不動産投資におけるリスクを把握し、適切な対策をとりながら長期的に運用する必要があります。
将来の入居者ニーズが期待できる物件・エリア選びから、空室リスクに備えるための建物管理や入居者管理、売却にいたるまで、不動産オーナー自らが行うことも不可能ではありません。一方で、専門的な知識や経験・実績をもったプロの不動産会社に相談すれば、不動産投資のメリットをさらに活かすことができます。
相続税対策として不動産投資を検討している方は、長期的な信頼関係が築ける不動産会社に相談してみましょう。
まとめ
近年、相続税対策として注目を集める不動産投資ですが、過度な節税対策は不動産運用全体にリスクをもたらしかねません。不動産投資の本来の目的は、長期にわたり安定した収入を得ることです。相続税対策や将来のための資産形成として不動産投資をお考えの方は、豊富な知識・経験をもったプロの不動産会社に相談してみてはいかがでしょうか。
優良物件選びから賃貸管理・売却相談まで、不動産オーナーの将来や家族に寄り添ってサポートしてくれる不動産会社を見つけてください。