2023年4月14日、日本政府は大阪府・市が申請していたIR施設を含む区域整備計画について正式に認定。日本初のカジノの建設を含む計画は以前から話題になっていたこともあり、ニュースで大きく取り上げられました。
しかし、「カジノ計画」という言葉だけが先行して、内容をきちんと把握している人は多くありません。そこで、大阪のカジノ計画に関する背景や概要、具体的な内容などを詳しく解説します。
もくじ
大阪のカジノ計画の背景と概要
カジノは観光・地域開発・雇用創出などの面から経済的に大きな影響を及ぼす、東京オリンピック後の国家観光戦略の柱に位置付けられています。これまでも、さまざまな都市が候補地として挙げられましたが、国の認可にはいたりませんでした。
今回初めて認可された大阪が、今のところもっとも実現性の高い都市です。大阪のカジノ計画の背景と概要について解説します。
IR(統合型リゾート)施設とは何か
IRとは「Integrated Resort」の頭文字をとった略称で、日本語では「統合型リゾート」のことです。ホテルや劇場、ショッピングモール、さらには国際会議場や展示会場などが集まった複合的な施設を指します。「IR=カジノ」というイメージが先行していますが、カジノは統合リゾートの集客の核ではあるものの、あくまでも複数ある施設のうちの1つです。
世界的に名が知られているIR施設の建設地としては、ラスベガス・マカオ・シンガポールが挙げられます。とくに、カジノといえばラスベガスが有名ですが、カジノの収益は全体の3分の1程度に留まっており、メインの収益はサーカスやコンサートなどのイベントです。
また、アジア圏のシンガポールには、国内に2つのIR施設があります。セントーサ東北部にあるワールドセントーサはリゾート性が強く、「家族で楽しめる大型リゾート施設」がコンセプトです。
もう1つのマリーナベイサンズは、シンガポール最大の観光スポットとなっています。2つを合わせた営業利益は2,200億円に上っており、インバウンドの面からみても無視できない存在です。
カジノ関連法の成立
日本国内では、2000年代にはいってからIR施設の建設議論が始まりました。中国を始めとするアジア諸国の経済成長によって、インバウンド需要が高まったためです。しかし、世界に通用する規模の統合型リゾート施設は、現在も国内にありません。そこで、高まるインバウンドに対応し、さらなる収益をあげるために法整備が進められてきました。
2002年に超党派の議員連盟が発足し、2013年と2015年には特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案、いわゆるIR推進法案が提出され、翌年2016年に成立します。さらに、2018年には具体的な内容を含んだIR実施法も成立しました。
その後は、建設予定地として北海道から九州まで複数の組織が誘致を目指して、各地で議論が高まります。法案成立当初は、早ければ2022年内にも2〜3箇所のIR施設が営業を開始すると予想されていたほどです。
しかし、2019年末にIR事業を巡って現役国会議員による汚職事件が発覚したことや、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大などの影響により、現在までどこも開業にはいたっていません。
大阪におけるカジノ計画の起源と推進経緯
当初IR施設の候補地には北海道(苫小牧・留寿都)、千葉(幕張)、東京(台場)、神奈川(横浜)、愛知(名古屋・常滑)、大阪(夢洲)、和歌山(マリーナシティ)、長崎(ハウステンボス)がありました。
さらに、大阪・横浜・長崎・和歌山という4つの自治体が誘致に名乗りを挙げます。しかし、横浜は市長選をきっかけに、和歌山は県議会での否決でそれぞれ撤退を余儀なくされました。
長崎は、2022年4月に県議会でIR計画が可決され、2023年度後半には国が整備計画を認定するとみられています。
候補地のなかで、もっとも動きの早かった都市が大阪です。2022年3月24日に、IR整備計画の議案が可決され、2023年4月14日に念願の国の認可を取得しました。現在、2029年度後半の開業を目指し、整備を進めています。
大阪IR施設の認定と具体的な内容
2023年4月に国が大阪IRの区域整備計画を認定したことにより、大阪にIR施設が誕生することはすでに決定しています。大阪の都市成長戦略を根本から変えるような巨大プロジェクトが、いよいよ実現に向けて動き出そうとしているのです。
大阪IR施設の認定までのプロセスや、計画されている概要についてご紹介します。
大阪IR施設の認定プロセス
国が認定を与えて建設が決定的になった大阪のIR計画ですが、決定までには紆余曲折がありました。計画当初は2026年度末としていた開業時期ですが、2020年には当時の大阪市長が会見で開業時期が延期される見通しを発表しています。
2022年には実質的にIR誘致に反対する市民団体「カジノの是非は府民が決める住民投票を求める会」が、府内で住民投票の実施を求めて署名活動を開始。2022年3月25日からわずか2カ月間で、合計21万人分もの署名を集めて府民の関心の高さを示します。ただし、この署名による住民投票は、府議会での否決によって実施されませんでした。
2023年4月14日に、大阪府・市が申請した夢洲での整備計画が政府により認定され、大阪IR計画がようやく推進されることになります。
計画されているIR施設の概要
大阪IRの計画地は、ベイエリアの人工島である夢洲です。敷地面積は約49.2万平方メートル、総延べ床面積が約77万平方メートルの巨大な施設が建設されます。
大阪IRには、最大会議室6,000人収容の国際会議場施設、展示施設、約2,500室の3つのホテル、3,500席を有する夢洲シアターなどのエンターテイメント施設、約31万平方メートルの飲食・物販・サービスなどの施設、そしてカジノ施設が整備される予定です。
なお、カジノのイメージが強いIR施設ですが、カジノがIR施設全体の床面積に占める割合は3%という上限が定められています。
大阪カジノ計画の影響と課題
大阪カジノ計画は、今後の大阪の地域経済に大きな影響を与えるとみられています。実際にIR施設が建設されることで、どのようなメリット・デメリットが考えられるのかを解説します。
大阪の不動産事情にも少なからず影響を与える事業なので、さまざまな角度から分析してみましょう。
地域経済への影響と期待効果
IR施設の建設が与えるもっとも大きな影響は、直接的な収益の向上です。大阪IRでの年間の来場者数は約2,000万人、売上5,200億円、経済波及効果は年間1兆1,400億円を見込んでいます。施設自体で収益があがっても、直接府民にメリットはありません。しかし、高い収益をあげる施設が地域内にあれば、税収の増加につながって府民サービスの向上が期待できます。
たとえば、巨大IR施設のあるマカオでは、歳入の約7割がカジノ税による収入です。カジノ税で達成した財政収支黒字によって、医療や教育などが無料化されているうえ、約12万円を国民に現金で支給する制度まであります。
社会的問題や依存症対策への取り組み
カジノが建設されることで懸念されるのが、治安の悪化とギャンブル依存症患者の増加です。日本政府も社会的な問題点については重要視しており、2020年1月7日にはIR事業者を規制・監督するカジノ管理委員会が設置されました。また、ギャンブル等依存症対策基本法も定められ、各自治体に「週3回・月10回までの入場制限」や「クレジットカードによるチップ購入を禁止」などギャンブルに依存しない環境づくりの対策をおこなうことを義務付けています。
治安の悪化については、カジノ建設に限っての具体的な動きは現在のところないようです。しかし、シンガポール・マカオ・韓国において、IR設置前と後で犯罪件数に大幅な変動はないとの統計もあり、治安面ではそれほど大きな影響はない可能性があります。
大阪ベイエリアを中心に不動産投資へも大きな影響
大阪のIR施設が建設される予定の夢洲は、大阪ベイエリアに位置する人工島です。夢洲自体は隔離されたエリアですが、周辺地域の利便性が高まる可能性があり、今後の需要増に注目が集まっています。IR施設へのアクセスのいい地域を中心に鉄道が延伸され、ホテルや商業施設などが建設されると予想されているためです。
利便性の良い地域になればマンションの建設が進み、人気のエリアになる可能性が高まります。不動産投資という視点でも、大阪IR計画の動向に注目しておくべきです。
【まとめ】大阪で開業予定の日本初のカジノに注目
大阪に建設されるIRは、入場料だけで6,000円もかかる高額施設となることが予定されており、自分には関係のない話だと感じる方も多いかもしれません。しかし、IR施設が建設されることで都市としての競争力が向上します。人とお金が集まるようになれば、それだけ税収も増加するので、住民サービスの向上が期待できます。
また、不動産の価値が高騰する可能性もあるので、建設エリア周辺に住んでいる人への影響も少なくありません。IRの誘致は複数都市が計画していますが、大阪が日本で初めて認可されたことから、開業時期も日本初となる公算が高くなっています。今後の大阪IR計画に注目しましょう。