年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられたことに伴い、繰り上げと繰り下げ受給を選択できるようになりました。選択肢が増えたことで、よりライフスタイルに合わせて受給できるようになりましたが、どちらが得になるのかの損益分岐点を考慮して決める必要があります。
そこで、年金の繰り上げ受給時における損益分岐点の見極め方を、お得になる年齢も含めて詳しく解説します。年金の基本的な仕組みについても紹介しているので、将来の年金受給を考える際の参考にしてください。
もくじ
年金の受給年齢は自分で選べる
年金の受給開始年齢は、60歳から75歳までの間で任意に選択することが可能です。受給開始年齢を選べるようになり、何歳まで働くのか、いつから年金生活をするのかといったライフプランの選択肢が広がりました。
年金の受給開始年齢について基本的な部分と、繰り上げ・繰り下げ受給におけるメリットとデメリットをみていきましょう。
年金の受給年齢の基本
年金の受給開始年齢は、原則として65歳です。年金制度は国民年金に加えて、厚生年金や共済年金がありますが、どの制度も受給開始年齢は変わりません。ただし、受給開始年齢を引き上げた経過措置として、一定の要件を満たしている場合に限り、特別支給の老齢厚生年金を60歳から受給できます。
一方で、最速60歳での繰り上げ受給や、最大75歳までの繰り下げ受給も、受給者が任意に選択できる点が現行制度の大きな特徴です。受給額だけをみると繰り下げ受給のほうがお得ですが、繰り上げ受給にも一定のメリットはあります。老後のプランに合わせて、最適な受給タイミングを選ぶことが重要です。
繰り上げ受給した場合のメリット・デメリット
繰り上げ受給した場合のメリットは、早期に年金を受け取れる点です。60歳前後で早期退職をした場合や、老後資金が不足しそうな場合に、年金を前倒して受給することで安定した収入を確保できます。
一方で、繰り上げ受給を選択するデメリットは、受給できる年金が減額されるうえ、その金額が一生続く点です。また、国民年金の任意加入や保険料の積み増しなどもできなくなります。さらに、繰り上げ請求をした場合は、あとから取り消しができないため慎重に検討しなければなりません。
繰り下げ受給した場合のメリット・デメリット
繰り下げ受給を選択した場合の最大のメリットは、本来の年金額よりも増額された金額を受給できる点です。増額された年金は、繰り上げ受給時と同様に一生涯続くため、長生きをするほど受給総額が増えていきます。
デメリットは、寿命によっては総受給額が少なくなる点です。例えば、75歳まで受給開始年齢を繰り下げた場合、寿命が一定だとすると通常の65歳時より10年も受給期間が短くなります。また、会社員などで厚生年金に加入していて、現在扶養家族がいる世帯では、年金の繰り下げをすると「加給年金」も受給できません。年金の繰り下げ受給をする際は、単純にもらえる月額の受給額だけではなく、総合的に判断する必要があります。
繰り上げ受給の損益分岐点を見極める方法
年金の繰り上げ・繰り下げ受給について、どのようなタイミングを選択すれば最終的に得をするのか気になるところです。
そこで、繰り上げ・繰り下げ受給をした場合の損益分岐点を見極める方法について詳しく解説します。
通常の年齢で受給した場合の金額を把握
受給タイミングの変更による損益分岐点を見極めるためには、まず通常の年齢で受給した場合の金額を把握しておきましょう。また、原則として、老齢基礎年金と老齢厚生年金のどちらか一方だけを繰り上げ受給することはできません。
厚生労働省の「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、平均的な年金受給額は14万3,965円です。国民年金の年間受給額は「年金額×(保険料の納付月数÷480カ月)」という計算式で算出できます。令和5年現在では「79.5万円×(保険料の納付月数÷480カ月)」が具体的な計算式です。
厚生年金の場合は保険料の納付月数だけではなく、年収によっても受給額が変化します。インターネット上でも手軽にシミュレーションができるので、受給タイミングを変更する前に確認しておきましょう。
繰り上げ受給をした場合の計算方法
年金の支給開始年齢を60歳まで繰り上げた場合は、繰り上げた月数に応じて1カ月ごとに0.4%年金額が減額されます。例えば、60歳に繰り上げた場合、60カ月✕0.4%の合計24%が減額される計算です。
損益分岐点は、65歳での受給額を100とした場合に、5年早く受け取ったために受給できなかった24%が何年分の年金になるかを換算することで算出します。計算式は、100✕5年÷24%=20.83333年です。つまり、繰り上げ受給をすると、受給開始より約20年10カ月後の80歳10カ月から年金の総支給額は少なくなります。
繰り下げ受給をした場合の計算方法
繰り下げ受給をした場合の損益分岐点を計算してみましょう。繰り下げ受給をすると、繰り下げた月数の0.7%が増額されます。最大の75歳まで繰り下げた場合は、受給額が84%まで増額される計算です。
100✕10年÷84% =11.904となり、受給開始から11年あまりで65歳から受給した場合の総額を上回ります。75歳からの支給なので、86歳11カ月で繰り下げ受給のメリットがでるということです。
損益分岐点を見極める
損益分岐点の見極めは、自分が何歳まで生きるのかというポイントに直結しています。例えば、受給を60歳まで繰り上げた場合の損益分岐点は80歳10カ月であるため、81歳より早く亡くなれば繰り上げた方が受取額は多くなります。
しかし、実際の寿命は誰にもわかりません。損益分岐点はあくまでも参考程度にとどめ、老後のライフスタイルや退職時の資金に応じて、最適な受給タイミングを選択しましょう。
年金を繰り上げ受給する際の注意点
年金の繰り上げ受給をしても、減額されるのは1カ月繰り上げるごとにわずか0.4%。しかし、繰り上げ受給をする際は、毎月の支給額だけではなく、さまざまな観点で検討することが重要です。
年金の繰り上げ受給をした際の注意点を、整理してご紹介します。
長生きをした場合繰り下げ受給よりも損をする
年金の繰り上げ請求をおこなうと、繰り上げする期間に応じて年金額が減額されます。基本的な支給年齢の65歳を基準にしても、80歳10カ月が損益分岐点です。
さらに、支給額が増額される繰り下げ受給と比較すると、長生きをするほど支給額の差は広がります。寿命は予測できないため、一概に損をするとはいえませんが、男女ともに平均寿命が80歳を超えていることを加味して受給開始年齢を選びましょう。
繰り上げ受給を請求すると取り消せない
60歳を超えて繰り上げ請求をおこなうと、請求した日の翌月分から年金が支給されます。請求の手続きをおこなった時点で繰り上げの減額率が決定され、取り消しはできなくなる点に注意が必要です。
繰り上げ受給で決定した減額率は、一生涯適用されます。また、老齢基礎年金、老齢厚生年金ともに繰り上げることになるため、慎重に判断しましょう。
保険料を積み増せなくなる
年金の繰り上げ請求をすると、国民年金の任意加入や、保険料の追納ができなくなります。また、65歳になるまでの間、雇用保険の基本手当や高年齢雇用継続給付が支給される場合は、老齢厚生年金の一部またはすべてが支給停止になる点にも注意が必要です。
国民年金の未納期間があると、年金受給が少なくなってしまいます。65歳までの間に任意加入することで未納期間を減らせますが、繰り上げ受給をすると任意加入ができません。繰り上げ受給による減額と合わせて、大幅に受給額に影響するケースもあるため注意しましょう。
【まとめ】年金の繰り上げ受給は損益分岐点だけではなく総合的に判断
繰り上げ受給制度を利用することで、年金は最速で60歳から受給できます。しかし、受給額が減額されるため、繰り上げ受給を決定する前に損益分岐点を十分に考慮しましょう。
一方で、損益分岐点を算出しても実際に受給する期間、つまり寿命は誰にもわかりません。年金の繰り上げ受給を検討する際は、単純な受給額だけではなく、老後のライフプランや資産状況に応じて総合的に判断することが大切です。