財形住宅融資は、一般的な住宅ローンとは利用条件が異なる住宅取得のための融資制度です。住宅を購入する際、自己資金で足りない分を融資でまかなう人は少なくありません。しかし、借入金額が大きくなりがちなため、少しでも有利な条件でローンを組むことが大切です。
財形住宅融資には、金利や手数料などの面で一般的な住宅ローンにはないメリットがあります。一方で、財形貯蓄の利用者のみなど、申込みにあたっては細かな条件が定められており、誰でも利用できるわけではありません。
そこで、財形住宅融資の利用条件やメリット、デメリットを詳しくご紹介します。
もくじ
財形住宅融資は誰でも利用できるわけではない
財形住宅融資は、住宅を建てる際の資金調達方法の一つです。一般的な住宅ローンと同様に、必要な資金の全部や自己資金で不足する部分に充当できます。ただし、財形住宅融資には銀行などが提供する住宅ローンにはない条件が細かく定められているため、利用する際には注意が必要です。
財形住宅融資の基本的な仕組みや条件をみていきましょう。
財形住宅融資は住宅ローンの一種
財形住宅融資は、住宅金融支援機構が提供する住宅ローンの一種です。融資を受けられるのは、財形貯蓄の利用者に限られます。
財形貯蓄とは、従業員の資産づくりを目的として、国と企業が連携して提供する福利厚生制度です。毎月の給与から一定額を天引きして、積み立てることで資産形成をします。財形住宅融資を受けられる財形貯蓄は、以下の3種類です。
財形貯蓄の種類 | 用途 |
---|---|
一般財形貯蓄 | 制限なし |
財形住宅貯蓄 | 住宅購入やリフォーム |
財形年金貯蓄 | 老後の年金 |
一定の条件を満たさないと申し込めない
財形貯蓄の利用者であっても、さらに細かい条件をクリアしないと財形住宅融資には申し込めません。また、条件には大きく2種類あり、それぞれを満たす必要があります。1つは申込者の状況、もう1つは融資を利用する住宅の条件です。かなり細かく定められているため、申し込む前にしっかりと確認しておきましょう。条件の内容は以下のとおりです。
申込者の条件
【1】財形貯蓄の利用状況
財形住宅融資を利用するには財形貯蓄をしていることが前提ですが、さらに利用状況にも条件が定められています。
1.「一般財形貯蓄」「財形住宅貯蓄」「財形年金貯蓄」のいずれか1つを1年以上継続していること
2.過去2年以内に財形貯蓄に入金していること
3.申込時点で財形貯蓄の残高が50万円以上であること
2つ以上の財形貯蓄を行っている場合は、いずれかの貯蓄を1年以上続け、申込日前2年以内に財形貯蓄の預け入れをおこない、かつ、それぞれの貯蓄残高の合計額が50万円以上あれば融資の対象となります。
【2】勤務先の会社に住宅に関する負担軽減制度があること
勤務先の会社で住宅手当や利子補給といった負担軽減制度が設けられていることも、財形住宅融資を利用する条件の一つです。また、負担軽減制度は、原則5年以上継続されている必要があります。ただし、リフォームの場合は、負担軽減制度の有無は問われません。
【3】年齢的な条件
財形住宅融資には、利用可能年齢が設定されています。利用可能年齢は、住宅を購入、建設する場合は借入申込日に70歳未満、リフォームの場合は満79歳未満です。ただし、親子リレー返済を利用すれば、親の年齢が基準を超えていても利用できます。
【5】総返済負担率の基準を満たしていること
年収に対するローン返済額の割合も、財形住宅融資の利用条件として定められています。また、返済負担率は、財形住宅融資だけではなくすべてのローンが対象です。ただし、総返済負担率の基準をクリアできない際は、同居する親族や同居しない直系親族収入を合算できる場合もあります。
年収が400万円未満:30%以下
年収が400万円以上:35%以下
住宅の条件
財形住宅融資は、融資額を利用する住宅にも細かい条件が定められています。新築か中古住宅かによっても条件が異なるため、事前に確認しておきましょう。
共通 |
・自身で所有もしくは居住する住宅であること ・完済するまで居住すること ・抵当権を設定すること ・火災保険に加入すること |
---|---|
新築住宅 |
・住宅部分の床面積が70㎡以上280㎡以下 ・借入申込日前の2年以内に完成していること ・住宅金融支援機構が定める技術基準に適合すること ・申込日前2年以内に完成または工事中の住宅(未着工含む) ・申込日前に売主から申込本人または第三者に所有権の登記がされていないもので、申込後に申込本人の所有になる住宅(土地含む) ・まだ人が住んだことのない住宅 ・敷地の権利が所有権または借地権(地上権で登記されているものまたは賃借権)である |
中古住宅 |
・一戸当たりの床面積(専有面積)が40㎡以上280㎡以下 ・建築後2年を越えている、もしくは2年以内で人が住んだことがある住宅 ・財形住宅が定める中古住宅の要件に適合する住宅 ・居室が2つ以上と台所、トイレ、浴室があり、店舗併用住宅ではないもの ・申込日前に売主から申込本人に所有権の登記がなされていない住宅で、申込後、申込本人の所有になるもの ・敷地の権利が所有権または借地権(地上権で登記されているものまたは賃借権)である住宅 |
一般的な住宅ローンと違う財形住宅融資のメリットとデメリット
財形住宅融資のメリットは、一般的な住宅ローンよりも優遇されている金利です。利用者や利用目的に厳しい条件を課している分、有利な条件で融資を受けられます。一方で、それらの利用条件によって、誰でも融資を受けられるわけではない点が大きなデメリットです。
財形住宅融資のメリットとデメリットを詳しくみていきましょう。
金利が低いうえ保証料や手数料も不要
財形住宅融資のメリットは、金利が低いことです。さらに、ほとんどの住宅ローンで必要な保証料や手数料もかかりません。
まず、金利については利用者の多いフラット35が1.43~2.03%ほどであるのに対して、財形住宅融資は1.06%です。(2024年4月執筆当時)住宅ローンは金額が大きく返済期間も長いため、わずかな金利差でも支払金額に影響します。ただし、借り入れ当初5年間の金利は固定されているものの、5年ごとに見直されるため変動する可能性がある点には注意が必要です。
また、一般的な住宅ローンでは、借入金額に対して一定の料率でかかる保証料や手数料も、少なからず利用者の負担となります。保証料も事務手数料も、借入金額の2%前後が必要です。(事務手数料の場合は定額の場合あり)これらは、財形住宅融資であれば一切支払う必要がありません。
金利の差はもちろん、保証料や手数料だけでも数十万円かかる場合もあります。利用者の負担を大きく軽減できる点が、財形住宅融資のメリットです。
借入金額に上限額がある
財形住宅融資のデメリットの一つは、借入金額の上限が明確に定められている点です。一般的な住宅ローンにも上限金額の目安はありますが、収入や資産状況、取得する物件によっては大きな金額でも融資される可能性があります。しかし、財形住宅融資では、下記の3条件のうち、もっとも低い金額までしか融資を受けられません。
・4,000万円
・財形貯蓄金額の10倍
・住宅取得価格の9割
つまり、融資額の上限は最大でも4,000万円です。一般的な住宅ローンは1億円、フラット35では8,000万円が上限であり、財形住宅融資の融資可能額は半額以下しかありません。取得する物件によっては、ほかの住宅ローンとの併用も検討しましょう。
厳しい利用条件が定められている
先述したとおり、財形住宅融資の利用にあたっては、厳しい条件が定められています。特に、勤務する会社の制度に依存する財形貯蓄を利用していることが前提であるため、本人の希望でどうにもならないケースも少なくありません。
また、利用条件のなかには財形貯蓄の残高や入金履歴といった項目もあります。将来財形住宅融資を利用する可能性がある場合は、条件を満たせるよう計画的に行動しましょう。
財形住宅融資の申込方法
財形住宅融資に申し込む際は、一般的な住宅ローンと同様に決められた書類を準備する必要があります。ほとんどの書類は財形住宅融資を実施する住宅金融支援機構から入手できますが、工事契約書などの写しなどが必要になるケースもあるため事前に確認しておきましょう。
財形住宅融資の審査に必要な書類と申込方法についてご紹介します。
審査の申込みに必要な書類
財形住宅融資の審査に必要な書類は、申込書や本人確認、収入証明書など一般的な住宅ローンと同様です。ただし、財形貯蓄残高計算依頼書や負担軽減措置などの証明書といった、財形住宅融資特有のものもあります。財形住宅融資に特有の書類は、申込前に住宅金融支援機構から取り寄せておく必要があります。
審査の申込みに必要なおもな書類は以下のとおりです。申込者の状況によって異なる場合もあるため、詳しくは住宅金融支援機構のホームページなどでご確認ください。
<住宅金融支援機構依頼から取り寄せる書類>
・財形住宅資金借入申込書
・負担軽減措置などの証明書
・財形貯蓄残高計算依頼書
・財形住宅融資の融資金利に関する確認書
・封筒(融資予約(承認)通知書送付用) ※84円切手の貼付が必要
・住宅金融支援機構 財形住宅融資概要説明書
<申込者本人が用意する書類>
・運転免許証などの本人確認書類
・住民税課税証明書や納税証明書といった収入を確認できる書類
・建物および土地の登記事項証明書
・工事請負契約書などの写し
団体信用生命保険への加入や各種金利引下げの特例措置を利用する場合などは、さらに書類の準備が必要になります。
申込方法と窓口
財形住宅融資への申込みは、住宅金融支援機構の取扱金融機関の窓口でおこないます。また、申込みをする金融機関は、取得予定の住宅がある都道府県内に限られる点に注意が必要です。
申込時に住宅のある都道府県まで行くのが遠い場合は、住宅金融支援機構に直接申し込むこともできます。ただし、直接申し込む場合は、原則郵送での手続きのみです。
【まとめ】条件さえ満たせば有利な財形住宅融資
財形住宅融資は、利用条件が厳しく誰でも申し込める住宅ローンではありません。しかし、利用条件さえ満たしていれば、金利や保証料、手数料といった金銭負担の面で利用者に有利な融資制度です。
わずかな金利差でも、住宅ローンでは最終的に大きな差額が発生するケースは少なくありません。また、保証料や手数料も、数千万円という融資額を考えると少なく思えますが、数十万円が手元に残るのは大きな違いです。
働いている会社の制度による部分もありますが、財形住宅融資を利用できる場合は検討してみてはいかがでしょうか。