極端な為替相場の変動が起こった際、政府によって実施される為替介入。日本でも、過去に何度も実施されてきました。直近では、2024年4月から5月にかけて、円安への対応で為替介入がおこなわれています。為替介入を実施するのは、為替の急激な変動が経済に与える悪影響を最小限にするためです。
そこで今回は、為替介入の基本的な仕組みと、円安で実施される理由をわかりやすく解説します。
もくじ
為替介入の仕組みと目的
為替介入とは、通貨当局が自国の通貨を守る方向で為替を売買することです。「介入」という言葉から、通常ではない行動のイメージはつくものの、詳しい仕組みを知らない方は少なくありません。
為替介入の基本的な仕組みと目的を、具体的な実施方法も含めて解説します。
正式名称は外国為替平衡操作
報道も含めて一般的に「為替介入」と呼ばれていますが、正式名称は「外国為替平衡操作」です。急激な相場変動が起こった際に、均衡を保つためにおこなわれます。
日本銀行のホームページによると、為替介入の実施を決定するのは財務大臣です。そして、実際の売買は、財務大臣の代理として日本銀行がおこないます。
為替介入は円安でも円高でもおこなわれる
ここ数年は円安が話題ですが、急激な為替相場の変動は円安だけではありません。円高方向へ急激に変動した場合でも、為替介入はおこなわれます。過去の実績をみても、1990年代や2000年代初頭など、円高局面での為替介入は何度も実施されてきました。円安でも円高でも、日本経済にダメージを与える相場動向であれば為替介入はおこなわれます。
実際の売買は、円高と円安誘導によって反対の取引がおこなわれます。例えば、円高に相場が急激に動いて円安に誘導したい場合は、円を売ってドルを買い入れます。円を売ると円安になる理由は、市場に出回る円が多くなって希少性が失われるためです。在庫が大量に余ると、セールがおこなわれることをイメージすると理解しやすいでしょう。
一方で、円高に誘導したい場合は、ドルを売って円を買い戻します。限定品などの入手困難な商品にオークションで高値が付けられるのと同様、市場に出回る円を少なくすることで価値を上昇させるのです。
為替介入の具体的なやり方
為替介入は、一般的な為替取引と同様、実際に通貨を売買します。ただし、単純に預金から現金拠出する一般の取引とは異なり、証券や債券が絡んでくる点が為替介入の特徴です。
円安に誘導する際は、まず「政府短期証券」を発行して円を調達します。調達した円でドルを購入しますが、すべてをそのまま預金として保有するわけではありません。通常は、米国債などの安全な資産に換えて運用します。
一方で、円高誘導を目的に円買いをする際は、米国債などのドル建て資産を売却することで円を買い戻します。なお、為替介入に使用される資金を管理しているのが「外国為替特別会計」、通称「外為特会」です。為替介入を報じるニュースで、聞き覚えのある方も多いでしょう。
また、為替介入を決定する権限は財務大臣にありますが、根拠なく最終決定を下しているわけではありません。日々財務省に送られる為替情報に基づいて、財務大臣が為替介入の必要性を判断した際にまずおこなわれるのは、日本銀行への連絡です。連絡を受けた日本銀行は為替の変動要因や介入の意思決定に必要な情報を財務相に送り、最終的に財務大臣が判断する仕組みになっています。市場に大きな影響を与える為替介入には、慎重な判断が求められるためです。
円安による悪影響
急激な為替変動は、円安と円高のどちらも経済に悪影響を与えるおそれがあります。しかし、資源や食品などを輸入に頼る日本では、急激な円安のほうが日常生活を直撃する深刻な問題になりかねません。
そこで、円安になった際の悪影響を具体例とともにご紹介します。
輸入商品が値上がりする
円安の直接的な影響は、輸入商品を中心に値上がりすることです。例えば、1ドル100円の際に、100gあたり100円で売られていたアメリカ産牛肉があったとします。1ドルが150円になると、単純計算で牛肉の価格は1.5倍の150円になってしまうのです。
また、値上がりは直接的な輸入品に限りません。輸入に頼る資源の代表格であるガソリンの価格も、円安になると上昇します。産地からの輸送に利用するトラックの燃料費が増加するため、国産の野菜であっても高くなるかもしれません。
国内経済の成長による物価高であれば、手にする給与も増えているため、相対的な影響は限定的です。しかし、円安による物価上昇はコストが増えるだけでなかなか給与には反映されないため、生活を直撃してしまいます。
また、商品が値上がりすると「買い控え」が起こりやすくなることも大きな懸念点です。物が売れなくなると企業の収益が減少するため、給与所得も連動して減少しかねません。結果として、経済全体が縮小するなかでの値上げという二重苦になるおそれもあります。
海外への旅行や投資が割高になる
円安をもっとも実感する場面が、海外旅行に出かけた際です。1万円を現地通貨に両替した場合、1ドル100円であれば100ドルを受け取れますが、1ドルが150円になると66ドルあまりにしかなりません。
また、外国株への投資でも、円安になることで日本人投資家は損をします。例えば、1ドル100円のタイミング、アメリカの成長企業の株価が100ドルだった場合の購入費用は1万円です。しかし、1ドル150円になると、購入資金として1万5千円を用意する必要があります。さらに、1ドル150円で資産を購入したあと、円高になると現地での資産価値が変わらなくても損失が出てしまう点も大きなリスクです。
実は円安にはメリットもある
あまり歓迎されない円安ですが、メリットも少なからずあります。
円安が与える好影響について、2つの事例をみていきましょう。
輸出企業の円建て業績がよくなる
円安になると日本から海外に輸出する商品は割安になるため、輸出企業にとっては追い風となります。日本円で300万円の車を輸出していた場合、1ドル100円だと現地での販売価格は3万ドルです。しかし、1ドルが150円になると、2万ドルで販売しても日本円換算で同じ売上があがります。
1万ドルもの値引きをしなくても売れるのであれば、売価を2万5千ドルに設定するなど、さらに売上を伸ばすことも可能です。経済状況は内需だけではなく輸出による影響も大きく受けるため、円安によって日本経済全体が活性化する側面もあります。
保有している海外資産の価値があがる
すでに海外資産を保有している投資家にとっても、円安は大きなメリットです。保有している資産の現地価格が変わらない場合はもちろん、仮に価格が下落していても円安への振れ幅によっては損失をカバーできたり資産を増やせたりする可能性があります。
例えば、1ドル100円のときに5,000ドルの海外資産を購入すると、日本円での資産価値は50万円です。1ドルが150円に上昇すると、資産そのものの価格変動がなくても75万円に上昇します。また、円安になれば国内市場が活況となるため、海外資産を売却した資金を元手に国内に投資することで、さらに資産を増やせるかもしれません。
【まとめ】為替介入によって急激な円安を抑えて経済の安定化を図る
急激な為替の変動が起こった際は、財務大臣の指示によって為替介入がおこなわれます。為替介入の目的は、国内経済への悪影響を最小限にとどめることです。特に、極端な円安は日常生活を直撃してしまうため、財務省、日本銀行ともに市場の動向を注視しています。
また、為替介入が実施されると、為替相場はもちろん、株式市場をはじめとするさまざまな投資市場にも少なからず影響を与えます。海外、国内を問わず資産運用をしている方も、為替相場の変動には注意して投資判断をしてください。