土地や建物の賃貸借契約で、貸主が一方的に契約を解除して借主を退去させることはできません。借地借家法に基づいて、借主の権利が保護されているためです。
そこで本記事では、貸主が退去を求める際に主張できる正当事由と、借主との円滑な交渉を進めるためのポイントについて詳しく解説します。
もくじ
貸主都合での立退きを求められる場合
借主は賃貸借契約の締結によって、借家権を取得します。借家権は借地借家法によって保障された権利のため、貸主は正当な事由なく立ち退きを求められません。
貸主が借主に立退きを求めるときの条件について、まずは詳しく見ていきましょう。
正当事由がある場合
貸主が借主に退去を求める場合には、借地借家法で定められている正当事由が必要です。貸主側の正当事由としては「土地や建物を貸主が自分で使用する」「建物の老朽化に伴って建て替えが必要」「家賃滞納など借主による契約違反」などが挙げられます。
ただし、貸主が正当事由を勝手に決めることはできず、借主の事情も考慮して認められます。特に、賃貸住宅の場合は借主の生活基盤であるため、借主側の事情が優先されやすい点に注意が必要です。
借主に過失がある場合
貸主による退去の申し立てが認められやすいケースが、借主側に重大な過失がある場合です。賃料の長期滞納や、騒音などの近隣住人への迷惑行為があれば、立退きを求められます。ほかにも、契約書で禁止されているのにペットの飼育や楽器演奏をするといった契約違反も、正当な事由として認められやすい事例です。
ただし、過失の程度や状況によっては、即座に退去を求められません。また、迷惑行為のように定義があいまいな事項については、被害を明確にする必要があります。家賃滞納を含めて借主の過失を理由に退去させたい場合は、細かく記録をつけておきましょう。
立退きは基本的に交渉が必要
貸主が借主に立退きを求める際は、法的な正当事由があったとしても、借主との交渉が不可欠です。基本的には借主の主張がとおりやすいため、退去の同意を得るためには慎重な対応が求められます。
借主が納得できるよう、立退きの理由や条件を丁寧に説明することが大切です。また、立退きまでの期間に余裕をもって交渉すると、借主に応じてもらいやすくなるでしょう。
ただし、交渉をしたからといって、必ずしも立退いてもらえるとは限りません。交渉が成立しなかった場合に、裁判をしてでも立退きを進めるのか、ほかの解決方法があるのかといった選択肢を事前に検討しておくことも大切です。
立退きを求められる正当な事由
貸主が借主に立退きを求めるには、借地借家法に基づく正当事由が必要です。正当事由とされるケースには、物件自体の問題や物件を取り巻く周辺環境、そして貸主の個人的な事情などがあります。
それぞれの事由について具体的に見ていきましょう。
老朽化による建て替え
建物の老朽化によって安全性や快適性が著しく低下した場合、貸主は建て替えを正当事由として借主に立退きを求められます。築年数の経過により損傷した建物は、借主だけではなく近隣住民にも悪影響を及ぼしかねないためです。また、古い建物を新しくできた耐震基準に適合させることも、正当な建て替え理由となります。
ただし、老朽化による建て替えを正当事由にする場合でも、合理的な理由がなければ認められません。借主がより合理的な理由で建て替えを拒否すれば、正当事由に当たらないケースもあります。
再開発による取り壊し
地域の再開発計画で建物が取り壊される場合も、正当な事由に当たります。行政の公共事業に伴う取り壊しのため、基本的に借主は立退きを拒否できません。
ただし、再開発を正当事由にする際にも、借主との丁寧な交渉を心がけることが大切です。裁判などに持ち込まれると、最終的に認められたとしても大きな手間がかかってしまいます。借主に納得してもらえる条件を交渉して、スムーズに退去手続きを進めましょう。
貸主が自分で建物を使用する事情がある
住居や事業用として貸主自身が物件を使用する場合も、正当事由として退去を求められます。ただし、該当物件を使用せざるを得ないという、合理的な理由の提示が必要です。
入居者による家賃滞納や契約違反
家賃の滞納や契約違反といった重大な過失が借主にある場合は、退去を求められる可能性が高いでしょう。また、物件の資産価値を低下させる騒音や悪臭、ゴミといった迷惑行為も正当事由です。
ただし、家賃滞納や契約違反、迷惑行為があっても、即時立退きを求められるわけではありません。例えば、家賃滞納であれば、支払いの督促や交渉を重ねたうえで応じてもらえない場合にようやく認められます。契約違反や迷惑行為に関しても同様で、改善や解決に向けた話し合いが必要です。
貸主都合で退去を求める際の交渉ポイント
貸主の都合で借主に退去を求める際は、お互いの信頼関係を維持しつつ、丁寧に交渉を進める必要があります。貸主にとっては正当事由であっても、借主が納得してくれないと交渉が難航してしまうためです。
貸主都合で退去を求めるうえで、交渉をスムーズに進めるためのポイントを紹介します。
ゆとりをもった交渉期間をとる
立退き交渉は、十分な期間を確保しておくことが重要です。交渉期間にゆとりがあれば、貸主と借主双方にとって納得できる結果を得やすくなります。急な話として交渉すると借主の理解を得にくく、スムーズな合意形成ができません。
また、借地借家法には、契約期間満了の1年前から6カ月前までの間に正当事由を借主に伝える必要があると記載されています。契約期間満了直前に立退きを告げられても、借主は新たな住まいを見つけるのが困難なためです。
入居者が納得するように理由を説明する
立退きを求める際には、理由を明確にして説明することが重要です。立退きの必要性を具体的に説明できれば、借主の理解を得やすくなります。
しかし、誠意をもって丁寧に説明しても、受け入れてもらえないケースは少なくありません。感情的な対立から裁判に発展し、借主側に有利な判決が下された判例もあります。最終的に納得してもらえるよう、退去を求める理由を可能な限りわかりやすく伝えましょう。こうした事態を避けるためには、普段から借主との良好な関係を築いておくことが大切です。
立退き料を提示して話を進める
立退き料を先に提示しておくと、交渉をスムーズに進められる可能性があります。退去に際して借主が感じる不安は、引越し費用など新居の準備にかかる金銭的な負担です。不安を先に取り除いてあげることで、退去理由や時期といった内容に耳を傾けてもらいやすくなります。
立退き料は、退去に伴って借主に生じる経済的損失を補填できる金額とするのが一般的です。ただし、法的に金額が定められているわけではないため、双方が納得できるように誠意をもって話し合いましょう。
交渉内容を書面に残す
立退きにおける交渉の内容は、記録として書面に残すことが重要です。口頭での合意のみだと、実際の退去に際してトラブルの原因になりかねません。
また、最終的な合意に至る前の記録も、スムーズに交渉するうえで大切です。例えば、1度目の交渉で立退き料に納得してもらっても、最終的な合意の段階で金額を変えられてしまうと、話がいつまでもまとまりません。交渉の都度、借主と合意した内容を記録に残しておきましょう。
【まとめ】退去の交渉は難しいため専門家に委ねることも検討する
正当事由があれば、貸主が退去を求めること自体は可能です。しかし、借主に納得してもらえるよう、丁寧に交渉を重ねていくのは大きな手間と負担がかかります。また、法律面では借主が保護されているため、交渉にあたっては法的な知識も必要です。
実は、立退き交渉自体をサービスとして提供している、専門の企業もあります。交渉にあたっての法的知識はもちろん、さまざまな事例で培ったノウハウもあるため、個人で話し合いを続けるよりも双方が満足のいく結果を得られるはずです。借主の退去に悩んでいる場合は、専門業者への依頼も検討してみましょう。