親族の遺産を相続する際、借金していたことが発覚して悩む方も多いのではないでしょうか。
個人に借金があった場合、最初に頭に浮かぶのが相続放棄です。借金を相続すると、相続人が借金を返済する義務を負ってしまいます。しかし、実は借金の相続は悪い面ばかりではありません。
借金の相続にどう対処すべきか、相続の基本を含めて詳しくご紹介します。相続した財産の内容に応じて、最適な方法を選んでください。
もくじ
借金を相続する際は調査が重要
相続をする際は、故人が生前保有していた財産の内容をしっかりと確認してから相続するか否かを決めましょう。とくに、借金がある場合は、返済に苦労することがないように注意が必要です。
相続の基本的な仕組みと、遺産の種類や調べ方をご紹介します。
プラス資産だけを相続することはできない
相続とは、誰かが亡くなったときに故人の保有していた財産を相続人に引き継ぐことです。
「財産」という言葉のイメージからプラスの面ばかりを考えがちですが、実は引き継がれる財産にはマイナス面、つまり借金も含まれます。残念ながら、プラスの財産だけを選んで相続することはできません。
資産状況をしっかりと調査して判断
相続をする前に、まずは故人の資産状況をしっかりと調査しましょう。亡くなった方の財産として考えられるのは、預貯金や株、不動産といったプラス財産と、借入金や未払金などのマイナス財産です。
借入金の有無
銀行などの金融機関から借り入れがある場合は、預金通帳で確認できます。銀行以外の借入金は「JICC」や「CIC」といった金融情報を保有する機関に開示請求が可能です。クレジットカードや、消費者金融などの銀行以外の残債を確認できます。
預貯金の有無
銀行の預貯金については、通帳やキャッシュカードを探して確認しましょう。見つからない場合は、銀行で残高証明書を発行してもらうこともできます。
株などの有価証券
株などの有価証券を持っている場合は、定期的に送られてくる残高明細書で確認しましょう。それ以外の保有については「証券保管振替機構」で照会できます。
不動産の有無
不動産の保有を確認する際は、まず「登記済権利証」を探します。権利証を見つけたら、最寄りの法務局(登記所)へ行って登記簿謄本を取得してください。権利証と登記簿謄本の内容を照らし合わせて、所有している不動産の有無を確認できます。
また、課税対象となっている不動産を保有している場合、毎年4月〜5月頃に固定資産税通知書が送られてきます。通知書には、所有している不動産の一覧が記載されているので、把握していない不動産を見つけることが可能です。ただし、課税対象となっていない私道などに関しては、固定資産税通知書には記載されていません。
借金があっても相続放棄だけが選択肢ではない
相続する財産に借金があっても、相続放棄だけが選択肢ではありません。遺産相続には3つの方法があり、状況に応じて適切に選ぶことが大切です。選択肢によっては申し出る期限が決められていたり、手続きが必要になったりする場合もあるので注意しましょう。
相続放棄を含めて、相続時の代表的な選択肢を3つご紹介します。
すべてを相続する単純承認
故人の遺産をすべて相続することを単純承認といいます。単純承認のための法的な手続きはありません。相続の開始があったことを知ってから3カ月間、何もしなければ自動的に故人の遺産を相続することになります。
故人の遺産がプラス財産のみの場合は、単純承認で問題ないでしょう。しかし、借金がある場合には、相続人が返済義務を負うことになるため、3カ月以内に対応方法を決定する必要があります。
一部を相続できる限定承認
限定承認は、財産のプラスとマイナスがはっきりとわからない場合に有効です。財産が明らかになってから、相続するかどうかを決められます。相続人にとって便利な方法ですが、家庭裁判所へ申し出る必要があるなど、手続きが非常に複雑で大きな手間がかかる点がデメリットです。
限定承認では、財産の調査をすべておこなってプラスの財産で債務を解消できた場合にのみ相続できるので、相続人自身が債務を返済する必要はありません。なお、限定承認を申し立てるには、相続人全員の意見が一致していることが条件です。
借金を返済しなくていい相続放棄
相続放棄をすると故人の財産を一切受け取らなくて済むため、故人に多額の借金がある際の選択肢として有効です。ただし、相続放棄をすると、当然プラスの財産も受け取れなくなります。
相続放棄を選択すべき場面は、借金がある場合だけではありません。現金化しにくいうえに多額の相続税が課せられる財産があった場合も、相続放棄をすれば相続税を支払う必要がなくなります。
相続放棄も限定承認同様、単純承認となってしまう相続開始を知った日から3カ月以内に申し立てる必要があります。
債務控除によって借金があれば相続税は少なくなる
遺産相続をすると、相続税が発生します。相続人は被相続人が亡くなった日の翌日から10カ月以内に、税務署へ申告して相続税を納税しなければなりません。
実は、借金があると相続税を軽減できる可能性があります。相続する財産によっては、借金があっても相続したほうがメリットの大きい場合もあるので、相続放棄をする際はしっかりと検討しましょう。
相続税の基本的な計算方法と、借金があるとなぜ相続税を節税できるのかを解説します。
相続税の基本的な計算方法
相続した財産にかかる相続税率は、国税庁のホームページで確認できます。基本的には、相続する財産に税率をかけて計算しますが、基礎控除があるので計算式は少々複雑です。
相続税の計算に使用される基礎控除の金額は【3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)】にものぼります。相続税は大きな金額となるイメージがありますが、実は基礎控除によって多くの場合で現実的な納税額におさまります。詳しい計算式は以下のとおりです。
4人家族の父が亡くなり、1億円の遺産を相続するケースを考えてみましょう。遺言でとくに指定されていなければ、配偶者と子ども(全員)にそれぞれ2分の1が相続されます。
1.遺産総額から基礎控除を差し引く
10,000万円− 3,000万円+ (600万円×3)= 5,200万円
2.基礎控除額を除いた金額を、法律で決められた割合で按分する
母: 2,600万円
長男: 1,300万円
長女: 1,300万円
3.各自の相続財産に対して決められた相続税率をかけて相続税を算出
母: 2,600万円× 15%− 50万円= 340万円
長男: 1,300万円× 15%− 50万円= 145万円
長女: 1,300万円× 15%− 50万円= 145万円
4.配偶者の相続割合に応じた税額軽減を適用
630万円× 50%= 315万円
340万円− 314万円= 26万円
5.合計相続税額を計算
母:26万円+ 長男:145万円+ 長女:145万円= 316万円
このように、1億円もの資産を相続しても、相続税はわずか316万円で済みます。
借金を相続した場合の計算方法
相続した遺産に借金があった場合、債務控除として遺産総額から差し引いて相続税の計算ができます。
ただし、相続前に費用が発生し、相続後に支払う金額だけが債務控除の対象です。故人が生前に支払っているものは、債務控除の対象にはなりません。
債務控除の対象は、金融機関からの借入金、連帯債務(故人が負担すべき金額が契約書などで決まっている場合)、未払いの医療費、死亡診断書作成費用、葬儀費用、未払いの固定資産税や故人の責任となる延滞金や督促手数料、預かり金などです。
なお、親族からの借金は債務控除の対象にはなりません。贈与の可能性も出てくるためです。また、保証債務や団体信用生命保険も同様に債務控除の対象外です。
借金の相続で迷ったら必ず弁護士などの専門家に相談
借金を相続する際、相続人の資金で問題なく返済できるのであれば、単純承認で相続しても問題ありません。しかし、多額の借金で返済が困難な場合などは、適切な対応を取る必要があります。
どのように対応すべきか判断に迷ったら、弁護士や司法書士などの専門家に必ず相談しましょう。相続方法の決定には期限があるため、できるだけ早い段階で判断することが重要です。