個人事業主として事業を開始したものの、開業届を出すべきかどうか悩んでいませんか。なぜ提出する必要があるのか、未提出でも問題ないのかなど、開業届について詳しく理解していない人もいるでしょう。
そこで今回の記事では、開業届を提出しなかった場合のデメリットや注意点について解説します。開業を考えている方や、すでに開業している方は、ぜひ参考にしてください。
もくじ
個人事業主が見落としがちな開業届
開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」で、事業を始めたことを国に伝える書類です。開業した際に、管轄の税務署に提出する必要があります。一方で、開業届を提出していなくても仕事はできてしまうため、意識したことがない方も多いのではないでしょうか。
そこで、個人事業主が見落としがちな開業届の必要性やルールについて詳しく解説します。
実は提出が義務付けられている開業届
所得税法によると、開業届は「事業開始から1ヵ月以内に提出しなければならない」と定められています。つまり、事業を開始したら、開業届を提出する義務があるのです。
開業届は、新しく事業を始めた人が納税の意志を示すために提出します。税の公平性を担保するという観点で、国税庁にとって重要な書類です。開業届には納税者本人の個人情報のほか、開業によって得られる所得の種類や事業概要などを記入します。
開業届を出していなくても特に罰則はない
提出義務のある開業届ですが、未提出だった場合の罰則は設けられていません。実際、開業届を出さないまま個人で仕事をしている人はたくさんいます。特に、開業したばかりのころは収入が安定せず、事業として継続できるかどうか判断できないことから、開業届を出さないケースもあるでしょう。また、提出するとデメリットが発生することもあるため、個人の状況に応じて判断してください。
ただし、開業届を出していなくても、取引先の申告や源泉徴収から国税庁は事業による所得を把握できます。開業届の提出とは関係なく、所得が20万円を超える場合には確定申告と納税が必要です。
開業届が不要なケースもある
収入があっても、開業届を提出しなくて良いケースもあります。事業の継続性がなく、一時的な収入であった場合です。
例えば、フリマアプリやネットオークションで、自宅の不要品を売却した場合が当てはまります。また、仕事をして報酬を得た場合でも、一度限りの依頼であれば開業届を出さなくても問題ありません。
開業届の提出義務の有無は、繰り返し収入を得るような継続性があるかどうかで判断します。
開業届を出していない場合のデメリット
開業届を出さなくても、罰金や指摘を受けることはありません。しかし、事業を継続するうえで、デメリットとなる場合もあるため注意が必要です。例えば、特別控除が受けられる青色申告は、開業届を提出していないとできません。
開業届を提出しない場合の主なデメリットを4つ紹介します。開業届を提出するかどうかの判断に迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
青色申告ができない
開業届を出さないデメリットの一つは、確定申告時に青色申告を選択できないことです。確定申告には、青色申告と白色申告の2種類があり、青色申告を選択すると多くのメリットを享受できます。青色申告をするにはいくつかの条件があり、そのうちの一つが開業届の提出です。
青色申告をすると、最大で65万円の特別控除が受けられます。また、赤字を3年間まで持ち越せる点も、青色申告の大きなメリットです。例えば、去年500万円の赤字で今年300万円の黒字だった場合、今年に関しては所得税が課されます。しかし、赤字を繰り越せる青色申告であれば、まだ200万円の赤字のため所得税は課されません。
銀行口座やクレジットカードが屋号で作れない
開業届を出していなければ事業とは認められないため、銀行口座やクレジットカードは原則個人名でしか作れません。個人事業主の場合は、取引先から信用してもらうことが大切です。取引に使用する口座の名義が個人名よりも、屋号になっていたほうが当然信頼度はあがります。また、事業に使用する口座と個人の口座を明確に区別できるため、収支計算をするうえでも便利です。
屋号で銀行口座やクレジットカードを申し込む際は、開業届のコピーが必要となります。免許証などで本人確認をするのと同様、屋号が確かに存在することを確認するためです。屋号で銀行口座やクレジットカードを作りたい場合は、開業届を提出しましょう。
補助金や助成金の申請に制限がある
開業届を出さないと、補助金や助成金に申し込めない場合がある点もデメリットです。国内経済を活性化するため、政府や自治体などは多くの補助金や助成金制度を用意しています。特に、経済的基盤の弱い個人事業主を含む中小企業向けにはさまざまな制度があるため、事業を安定化するためにもぜひ活用したいところです。
しかし、補助金や助成金の申請条件に、開業届の提出が含まれる制度が数多くあります。開業届が提出されていないと、事業の存在を証明できないためです。公的な支援を受けてより大きく事業を成長させたい場合は、開業届の提出を検討してください。
小規模企業共済に加入できない
小規模企業共済とは、主に個人事業主が加入できる共済制度です。しかし、開業届を出していないと、個人事業主であっても加入できません。
収入が不安定なうえ、退職金のような将来に対する保証がない点は、個人事業主にとって大きな問題です。小規模企業共済に加入すると、病気になった際の貸付制度や積み立てた共済金が退職金代わりになるサービスを受けられます。
個人事業主として事業をしていることが前提条件となるため、加入には開業届の提出が必要です。
開業届を出す際の注意点
開業届の提出は法律で義務付けられていますが、提出する際に注意すべきこともあります。状況によっては開業届を出すと損をしてしまうため、慎重に判断することが大切です。
開業届を提出するデメリットをみていきましょう。
退職タイミングによっては失業保険が利用できなくなる
開業届を提出すると、失業保険が受給できなくなるおそれがあります。失業保険とは、文字通り「失業」している人に対する給付制度です。開業届を提出すると、失業状態とは認定されなくなってしまいます。
失業手当を受給している間は、開業届を提出しないことをおすすめします。ただし、開業届を提出していなくても、収入を得ている場合には失業手当が減額されることがあるため注意してください。
また、会社員が副業として開業届を出した場合、本業の退職後にまったく失業手当を受給できないおそれがあります。
記帳の義務が生じる
開業届を提出して正式に事業をしていることが認められると、帳簿を作成する義務が生じます。帳簿作成にあたっては、確定申告の方法によって条件が定められている点にも注意が必要です。特に青色申告で最大の特別控除を受けるには、複式簿記による帳簿の作成が求められます。
ただし、事業をする以上、帳簿を作成しておくことをおすすめします。確定申告対策としてはもちろん、資金が限られる個人事業主の場合は収支の管理が重要であるためです。
【まとめ】継続的な収入がある個人事業主なら開業届を出したほうが良い
開業届を提出していなくても、特に罰金やペナルティはありません。しかし、個人事業主として継続的に収入を得ている場合は、開業届を提出することをおすすめします。そもそも提出が義務付けられている点も理由の一つですが、開業届を提出すると事業をするうえでさまざまなメリットを得られるためです。
例えば、開業届を提出すると確定申告時に青色申告を選択でき、特別控除が受けられます。巨額の収益をあげるわけではない個人事業主にとって、最大65万円が控除されることは大きなメリットとなるはずです。
ただし、失業手当の受給中など、開業届を提出すると損をしてしまうケースもあります。最終的には提出すると決めている場合でも、タイミングについては自身の状況を考慮して検討しましょう。