個人の不動産投資や株式投資の運用成績が好調で年収が増えると、一般的に資産管理会社を設立したほうがよいといわれています。これは、富裕層に限られた話ではなく、資産運用や副業をしているサラリーマンにとっても例外ではありません。
そこで本記事では、サラリーマンが資産管理会社の設立を検討すべき年収の目安や、会社を設立するメリット・デメリットを紹介します。
もくじ
メリットの大きい資産管理会社
将来的に一定額以上の副業収入を維持できる見込みの場合、資産管理会社設立の検討をおすすめします。法人として資産を保有するほうが、個人よりも大きなメリットを享受できる可能性があるためです。
まずは資産管理会社の役割を、メリットも含めて詳しく解説します。
資産管理会社の役割
資産管理会社とは、自分の資産を管理する目的で設立する法人のことです。個人資産を法人として管理し、資産の保全と増加を図ります。
資産管理会社は、通常の事業会社のように利益追求を目的とした営業活動はおこないません。ほとんどの場合は従業員を雇わず、プライベートカンパニーとして運営されます。
法人設立の最大のメリットは節税
資産管理会社を設立する最大のメリットは、個人と比べて節税効果が高い点です。サラリーマンが資産運用や副業によって得た利益には所得税が課せられ、税率は給与所得と合算した総所得金額によって決められてしまいます。
所得税は、所得が高いほど税率が高くなる超過累進税率が採用されており、最高税率は住民税を含めると50%を超えます。一方で法人の場合は、法人税と法人住民税が課せられますが、実効税率は高くても35%程度です。
ビジネスチャンスが広がることも資産管理会社のメリット
資産管理会社の設立は、ビジネスチャンスを広げるきっかけにもなります。単なる副業ではなく事業としての信頼性が高まれば、取引先や金融機関からの信用を得やすくなるためです。
金融機関からの信用を得られれば、新しいビジネスにチャレンジする資金の融資を受けられる可能性も生まれます。
資産管理会社を設立する目安は年収700万円超
一定の年収がないと、資産管理会社を設立してもかえって手間がかかるうえ、税金が高くなるおそれもあるため注意が必要です。資産管理会社を設立してメリットがある年収の目安は、700万円超といわれています。また、単年の年収ではなく、将来的な収入も含めて判断することが大切です。
節税という観点で、資産管理会社を設立すべき年収を詳しくみていきましょう。
給与所得と副業を合わせて700万円を超えると節税できる可能性
サラリーマンの資産運用や副業の収入に対する所得税額は、給与所得と合算して算出されます。
所得税率は、以下のとおりです。
<所得税の速算表>
課税される所得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000円から1,949,000円まで |
5% |
0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで |
10% |
97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで |
20% |
427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで |
23% |
636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで |
33% |
1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで |
40% |
2,796,000円 |
40,000,000円以上 |
45% |
4,796,000円 |
次に、資産管理会社を設立した場合の法人税率は以下のとおりです。
<普通法人の法人税の税率>
区分 |
税率 |
|
資本金1億円超の法人 |
23.2% |
|
資本金1億円以下の法人 |
年800万円以下の部分 |
15% |
年800万円超の部分 |
23.2% |
上記の表をもとに、仮に年収が700万円で個人と法人の税率を単純に比較した場合、所得税は23%で法人税は15%です。税率という観点で考えると、700万円が資産管理会社を設立するボーダーラインといえます。
副業の所得が900万円か年商1,000万円を超えた場合
資産運用や副業の所得のみで900万円を超えた場合も、資産管理会社の設立をおすすめします。課税所得が900万円を超えると、所得税と住民税の10%を合わせて税率が最低でも43%となり、法人実効税率の35%を大きく上回るためです。
また、年商が1,000万円を超えると、消費税の課税事業者となります。しかし、一定の条件はあるものの、法人を設立してから2年間は消費税が免除されるため支払う必要がありません。
資産管理会社を設立するデメリット
資産管理会社の設立には節税効果などのメリットがある一方で、費用面でのデメリットも存在します。法人設立時にはイニシャルコストがかかり、設立後には会計処理や税務申告の費用も必要です。また、赤字でも課せられる税金や社会保険料の負担も無視できません。
資産管理会社を設立するデメリットについて、具体的にみていきましょう。
法人登記にコストがかかる
資産管理会社を設立するには、さまざまなコストがかかります。最低限必要なものは、定款認証手数料、登録免許税、印紙税です。さらに、行政書士や司法書士といった専門家に書類作成や手続きを依頼すると、当然報酬が発生します。法人設立にかかる費用は、一般的に24万円前後+専門家への報酬です。
法人登記でかかる一般的な費用は、以下のとおりです。
- 定款認証手数料:3万~5万円(資本金による)
- 収入印紙代:4万円(電子定款の場合は不要)
- 登記謄本代:2,000円程度
- 登録免許税:資本金×0.7%または15万円
- 会社実印登録費用:2万~6万円前後(印鑑作成費用/オンライン申請時は不要)
- 行政書士、司法書士報酬:10万円前後
また、1円以上の資本金も必要です。
会計処理や税務申告が難しい
法人になるデメリットは、個人に比べて会計処理や税務申告が複雑になることです。例えば、納税だけを考えても、これまで支払っていなかった法人税と法人住民税が発生します。
専門的な知識が求められるため、本業の合間に正しく処理をするのは難しいかもしれません。内容が誤っていたり、処理が滞っていたりすると、税務署から指摘をうけるおそれもあります。費用はかかってしまいますが、専門家への相談をおすすめします。
赤字でも税金が発生する
資産管理会社を設立すると、赤字決算の場合でも法人住民税が発生します。法人住民税のうち均等割は、所得がなくても免除されません。利益の有無に関わらず、年間7万~8万円の支払いが発生する点も資産管理会社を設立するデメリットです。
資産管理会社を設立する際は、継続して法人住民税を支払うことも含めて計画してください。一方で、法人税については、赤字になっていれば発生しません。
社会保険料を負担しなければならない
法人を設立すると発生するのが、社会保険料の負担義務です。たとえ従業員が一人もいなくても、法人に雇われている従業員として代表者の社会保険料を支払う必要があります。
社会保険料の主なものは、健康保険と厚生年金です。金額は、代表者が会社から得る毎月の役員報酬によって決まります。費用負担を慎重に検討して、法人を設立することが大切です。
副業禁止の会社では就業規則に違反するケースがある
勤務している会社の就業規則で副業が禁止されている場合は、資産管理会社の設立が違反とみなされるケースもあります。違反してすぐに解雇されなかったとしても、コストをかけて設立した法人がムダになりかねません。
サラリーマンが資産管理会社の設立を検討する際には、勤務先の就業規則をしっかりと確認することが重要です。判断できない場合は、人事課や総務課といった関連部署の担当者に事前に相談しましょう。
【まとめ】資産管理会社の設立は慎重に判断することが大切
資産運用で利益をあげるサラリーマンにとって、資産管理会社の設立は節税の有効な手段です。一方で、設立コストや事務処理の手間、赤字での納税といったデメリットも少なくありません。また、勤務する会社の就業規則によっては、そもそも設立が禁止されているケースもあります。
資産管理会社を設立する際には、あらゆる面でのメリットとデメリットを慎重に検討することが大切です。判断が難しい場合には、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することをおすすめします。